2014年6月8日

HeroQuest紹介(3) - ナラティブRPGの遊び方

●ナラティブRPGの遊び方
いきなり 「物語を語り共有するのがナラティブRPGです」 と言われても、 どうやって遊ぶものかピンと来ない人も多いのではないかと思います。 HeroQuest  の具体的なルールを説明する前に、 まずはナラティブ RPG の遊び方について説明したいと思います。

と言っても特に難しいことはありません。 普通に RPG を遊んだことがある人ならば多かれ少なかれナラティブな遊び方について経験があるはずなのです。 ただ本人たちが気付いていないことが多いだけで。 ナラティブRPGも普通のRPGと同じく次々と展開していく状況でキャラクターの行動を指定して成功か失敗か判定して、 次のシーンへ行くという遊び方は流れは全く同じです。 違うのはその時の判断基準です。

ゲーム指向の RPG ならばプレイヤーはのどの手段を選んだら有利かどうやったらシナリオクリアの近道かを判断基準にアクションを選択します。 シミュレーション指向ならばキャラクターの考え方や背景世界の常識などに基いて現実的(リアル)な行為を選択します。 その他にもプレイヤーがやってみたかった行為をPCにやらせるなどの遊び方もあると思います。 ナラティブRPGはこの判断の時にどうやったら面白い物語になるか、 視聴者に喜んでもらえるかを判断基準に行動を選択します。

普通のRPGを遊んでいても面白くなりそうなアクションを選ぶというのは普段からやっていたのではないかと思いますが、 ただそれがルール上効率的なアクションやリアルなアクションと対立する時にはそちらを優先して、 面白くなりそうでも敢えて選択しないということはありませんでしたか?  そういう時に面白い物語になる方を優先するのがナラティブRPGの遊び方です。


●ナラティブRPGって楽しいの?
意識して遊んだことがない人にとって単に面白い物語になるように行動しろと言われても、 よく考えると難しいですよね。 誰にとって面白い物語なのかとか?  どうやったら物語が面白くなるのかとか? そんなことをしていてゲームが破綻しないか? そもそもナラティブRPGは遊んで楽しのか、 とかいろいろな疑問が湧くと思います。 今回はこのような疑問に順番に答えていってみたいと思います。

まずはナラティブRPGって楽しいのかという根本の疑問ですが、 基本的には楽しいと思って間違いありません。 人によってその楽しさの程度は異なるので、 ゲームの腕を競いたいとかシミューレションを楽しみたいと考えていた人たちにとってはがっかりする部分があるかもしれません(そういう時は別のゲームを検討するのが適切です)。 映画を見たり小説を読んだ時にこの展開は認められないとか、 こうしたらもっと面白くなるのにと思ったことがある人(ほとんどの人がそうだと思います)、 そういう小説、 映画、 コミックなどのストーリーを楽しめる人ならナラティブRPGを楽しめるはずです。

例えば、 こんな話があります。 何十年もRPGを遊んでいるようなベテランのRPGゲーマーに面白かった記憶に残るRPGセッションやキャンペーンの話を聞くと、 回答はの多くがいかに面白い物語だったか、 どのような劇的なエピソードが起こったかといった話ばかりで、 戦いの細かい進行とかゲーム的に有利な手順とかシステムがリアルだったかなどはほとんど出て来ません。 これはRPGの最大の楽しみが物語を創る点にあるということを示しているのではないかという主張です。 それならば余計な部分に時間や手間を使わずに、 そこに集中した RPG があっても良いのではなか。 これがナラティブRPGの試みになります。

遊びには余計な部分があるのが楽しいと個人的に思うので、 ナラティブが全てとは思いませんが、 ナラティブの面白さは多くの人が認める所のようです。


●そもそも面白い物語とは何か?
じゃあ目指すべき面白い物語って何かという疑問になるのですが、 これは究極の疑問ですね。 これに簡単に答えられるようならば小説家や脚本家にでもなって印税でがっぽがっぽ儲けることができるはずなので。

究極の問題ですが、 ナラティブRPGは個人作業ではなく、 参加者みんなで物語を創ることに特徴があります。 一人で悩む必要はありません。 みんなで脚本家になったつもりで、 どっちが面白そうかとか相談しながら進めれば良いのです。 そのようにして共有された物語は個人で作った物語を超えます。 どんな物語でも共有され共通認識になることによって楽しさが増すことが知られています。 面白い小説を読んだ時、 良い映画を見た時、 みんなとそれについて語り合いたい、 みんなに伝えたいと思ったことは有りませんか?  そういうのがナラティブの楽しみです。


●面白い物語を創るのって難しいのでは?
みんなで面白い物語を目指せば良いとは言っても、 どうやったら面白くなるかという技術面は初心者には難しい問題かもしれません。 こういう技術面では物語論とか脚本術として色々な研究がされていて解説本とかハウツー本とか出ているので参考になるかもしれません。

とは言ってもナラティブ RPG を遊ぶだけならば、そこまで難しく考える必要はないと思います。 物語のコツとかは小説や映画やコミックを通して 「お約束」 的に経験しているはずです。 曰く 「主人公は解決すべき問題をかかえていなければならない」 「主人公には敵/ライバルと支援者がいなければならない」 「主人公は失敗と成功を繰り返さなかればならない」 などなどいくらでも思いつくはずです。 そういった物語的お約束を守ることが面白い物語をつくる第一歩です。

最近はゲーム以外の方面でも何かとナラティブははやりのようで、 揺り籠から墓場までではありませんが、 それこそ子供の教育から老人のセラピーまでナラティブの活用が主張されています。 物語があるだけで理解が深まり、 共感を呼び、 記憶に残るということのようです。 物語があるだけで効果があるということならば、 最初は「面白い」という部分にはあまり拘らずに、 とにかく物語を創ることだけを目指してみると良いかもしれません。


●誰にとって面白い物語なのか?
物語の感じ方は人それぞれであり、 どのような物語を面白いと思うかは人によって違うのではないか?  鋭い指摘です。 シニカルでビターな話を好む人もいれば、 べたべたのハッピーエンド主義者もいます。 ファンタジー愛好者もいれば、 ハードSF好き、 歴史小説の愛好者などジャンルも様々です。 実際に人によって違うからこそ、 これだけ多くの種類の小説や映画やコミックなどが市場にあふれているわけです。

ナラティブ RPG を遊ぶ時にももちろんその辺を考慮する必要がありますが、 これも小説家や脚本家に比較するととても簡単です。 各プレイヤーが楽しませるべきは抽象的な視聴者などではなく、 目の前にいる他のプレイヤーやゲームマスターなのですから。 面白がってくれてるかどうか見て確認できますし、 わからなかればどっちが面白いか直接聞くことができます。

さらには、 いつも一緒にプレイするよく知った間柄ならば、 誰が何を好きかはあらかじめ判断できるかもしれません。 それならばその人たちに合わせたカスタマイズされた物語を進めることができます。 きっと満足してもらえることでしょう。

あまり良く知らない人とプレイする場合は少し難しくなります。 そのような場合にはハリウッド映画とか人気ドラマとかが参考になります。 そのような作品はできるだけ多くの人の最大公約数を満足させようと製作されていますので、 悩んだ時にはハリウッド映画のような展開を目指せば、 全員ではなくてもかなりの人が面白がってくれるでしょう。


●面白さばかり追求したら破綻するのでは?
面白さを追求して非効率な選択をしていたら敵に負けたり、 シナリオをクリアできなかったり、 経験値をもらえなかったり色々と困ったことになりませんか? 普通の RPG を遊び馴れた人からよく出る疑問です。 ナラティブRPGではこういう心配はありません。 なぜならナラティブRPGは勝たなくても良い、 シナリオをクリアしなくても良い、 成長しなくても良いからです。

考えてもみてください物語の中では主人公が勝ちっぱなしということはなく、 勝ったり負けたりしているはずです。実際ハリウッドの脚本術でも一本の映画の中で主人公は3回失敗しなければならないとされています。 物語的にも主人公が当初の目的に沿って目的を遂げるのではなく、 始めの目的は間違っていたことを知り途中で目的が変わるのはよくあることではありませんか。 そんな感じでナラティブRPGは戦いの勝ち負けやシナリオのクリアを目的としません。 ゲームとしての勝ち負けををいうのならば「面白い物語ができたら勝ち」という遊びです。

さらにゲームシステムがこの仕組みを裏付けています。 普通の RPG ならば現実をシミュレーションしておりその時の状況によって行為の難易度が決まりますが、 ナラティブRPGの場合には物語をシミュレーションしており物語的要請によって行為の難易度が決まります。 言いかえると物語上で成功しそうなことは状況にかかわらず判定難易度が低くなります。 物語の流れ上、 主人公の失敗が予想される時には(理由は後付けで)難易度が高くなります。


●そんなやり方だと飽きるのでは?
良い物語を作るためには物語のお約束を守った展開が良いと書きましたが、 それだと同じような展開ばかりになって飽きてしまうのではないかという疑問があります。

ちょっと聞くとナラティブは予定調和に落ち入ってしまって飽きてしまいそうですよね。 でも実際には細部が異なれば相当印象が違いますし、 複数のプレイヤーが参加する RPG では相互作用が思いもよらない展開をもたらすためそう簡単には予定調和や一本調子になったりしないのですが、 その心配はごもっともです。

その予定調和を壊すにはドラマ要素が必要です。 前回に感情を揺さ振り共有するのがドラマの楽しみだと書きましたが、 予定調和では人間の感情はなかなか動きません。 予想できない驚くべき悲しみや喜びが感情を揺さ振るのです。

もうだいたい見当がついていると思いますが、 サイコロの出番です。 普通のRPGでは確率事象をシミュレーションするためにサイコロを使いますが、 ナラティブRPGでは予定調和を壊すためにサイコロを使います。 そしてそれにより予測不能のドラマを演出するのです。 逆にいうとドラマが必要ないところではサイコロを振る必要はありません。


●物語ゲームとして
まだわかり難いですか。 それならばこんな例はどうでしょう。 通常のTRPGのコンピュータ版としてコンピュータRPGがありますよね。 ナラティブRPGによく似ているコンピュータゲームとしては物語系のアドベンチャーゲーム(サウンドノベルとかビジュアルノベルとか)が対応すると考えてみてください。 基本的に物語を進めることが目的で、 要所要所で選択肢があってプレイヤーの選択によって物語が変化していきます。 往年のゲームファンならばゲームブックを思い浮かべると良いかもしれません。 まず最初は物語系アドベンチャーゲームやゲームブックのように遊ぶ物語ゲームだと思ってナラティブRPGを始めるのが近道かもしれません。

だだし、 これらのゲームとナラティブRPGに重要な違いが二つだけあります。 一つ目はゲームブックもアドベンチャーゲームも作者が準備した選択肢の中からしか選べないに対して、 ナラティブRPGのプレイヤーは作者でもあり選択肢の中から選ぶのではなく自分で選択肢とその結果を作ることができる(作らなければならない)という点です。 もう一つは参加者が複数いてみんなで協力しながら遊ぶところです。


●セッションの前に
いかがでしょうか? ナラティブRPGとはどんなものか何となく理解いただけたでしょうか? 前置きが長くなってしまいましたが、 個人的な経験上、 始めて HeroQuest 遊ぶ人がいる時には、 ナラティブRPGとは何かを事前に時間とって説明しておかないと、 通常のRPGの常識にとらわれてセッションがうまく行かないことがあるので、 このような構成にしてみました。 みなさんも HeroQuest を遊ぶ場合には事前にナラティブRPGについて認識を合わせておくことをお勧めします。


《続く》
今回はナラティブRPGを遊ぶ上での疑問に事前に答えてみるという主旨で色々と書いてみたのですが、 まだまだ、 うまく自分の言葉に出来ていない気がします。 次回からは HeroQuest Core Rule の具体的な内容を紹介したいと思います。

4 件のコメント:

  1. いかに面白い話を作るか、ですか。みんなの面白い方向性が合わないと、なかなかハチャメチャな話になりそうですね。
    こないだやったカードゲームを思い出しました。メインプレイヤーが話を作るのにみんなで突っ込みを入れて邪魔するものでしたが。

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    1. そのカードゲームは「ワンス・アポン・ア・タイム」ですかね? 最近日本語版が発売になっていてびっくりしました。

      ワンス・アポン・ア・タイムは自分の物語を悟られないようにしながら相手の物語を邪魔するという対決型のゲームですが、 HeroQuest はみんなで物語を作る協力型のゲームなのでそんな変な話にはなり難いです。みんながみんな大人気ない勝手な主張をした場合はその限りではありませんが、そんな時の調整役としてナレーター(GM)もいますし。

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  2. Once Upon A Time でも「対決」していたら面白くはなりませんよ。少なくとも、第3版のルールでは勝利のために物語を台無しにしないように、といった注意書きがあります。

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    1. うーむ。対決型という言い方が悪かったのかな。
      勝利のために物語を台無しにするのではなく、勝利のために自分の物語で相手の物語の邪魔をするんです。このニュアンスの違い伝わりますかね?

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