少し間が空きましたが、 今回から HeroQuest での判定方法などのメカニズムついて説明していきたいと思います。
HeroQuest はできるだけプレイヤーやナレーターのやりたい物語を邪魔しないようにするという思想の元にシステムが作られています。 このため判定システムは単純かつ抽象的に作られており、 事象を説明したりする仕組みはありません。 実際に何が起きたかその結果どうなったかを説明するのはプレイヤーとナレーターにまかされています。
同じく一部のゲームが持っているような物語を発生させたりする仕組みや、 システムに従っているだけで皆がある程度楽しめるような仕掛けも一切持っていません。 ナラティブRPGで楽しむべきはあくまで皆で物語を創るところであって、 ゲームシステムを楽しむのが目的ではないという考えによっています(ゲームシステムを楽しみたいのならば別のゲームを遊ぶことを検討してください)。
HeroQuest においてはゲームメカニズムはできるだけ無色透明になるよう設計されています。 HeroQuest は先鋭的というか純粋なナラティブ専用なので、 そのシステムの単純さに戸惑うかもしれませんが、 ナラティブRPGの考え方に馴れてくると余計なおせっかいシステムは必要ないどころか、 むしろ邪魔に感じるのも確かです。
もう一つ HeroQuest のメカニズムの大きな特徴はダイスの影響が非常に大きいということです。 例えばアビリティにマスタリー 1つ分(+20)の差があっても 25% 近くの確率で逆転が起きます。 マスタリー 2つ分(+40)の大差でも 5% 前後の逆転の可能性があります。 ゲーム的な RPG ならばダイス依存度が高いとプレイヤーの工夫が無駄になるので興醒めですし、 シミュレーションならばリアルな確率分布が求められます。 ナラティブRPGである HeroQuest においてダイスに求められるのはドラマです。 物語を面白くするためには現実以上に特別な事態や番狂わせが必要です。
●コンテストとは
HeroQuest において他のRPGでの技能判定や行為判定に相当するものをコンテスト(Contest:勝負)と呼びます。 多くのRPGではキャラクターや NPC たちの行った個々の行動、 例えば 「ゴブリンへの剣による攻撃が命中したかどうか」 の成功失敗を判定するために行為判定を行います。 HeroQuest ではもう少し粒度が大きく抽象的に PC がその目的を達成できたかどうか、 例えば 「ゴブリンの集団を迎撃して追い払うことができたかどうか」 を判定するためにコンテストを行います。
HeroQuest ではダイスを振るのは現実のシミュレーションを行うためではなく、 物語のシミューレーションを行うため、 そして物語にドラマを与えるためです。 そのため物語の中で勝敗に注目が集っている場面でのみダイスを振ります。 物語上重要でない場面(ドラマが必要ない場面)ではコンテストは行いません。
HeroQuest における判定には以下の種類があります。
自動成功: ダイスを振らずに成功を決定します
単純コンテスト: 普通の判定方法でダイスを1回づつ振って結果を判定します
集団単純コンテスト: 複数のPCが協力して単純コンテンストを行います
拡張コンテスト: 互いに複数回ダイスを振って時間をかけて解決を行う方法です
集団拡張コンテスト: 同時に敵味方の多数が参加して行う拡張コンテストです
これらは主に物語的な重要度で使いわけます。 こんな風に考えてみてください。 小説の中だと 10行で片が付くような戦闘場面は自動成功で処理し、 10ページで行われるような戦闘ならば単純コンテストで解決し、 100ページ続くような重要な戦いならば拡張コンテストを使うといった感じです。
もう一度書きますがコンテストは行動判定ではないので、 全ての行為をコンテストで判定しようとしないでください。 コンテストはそれによって物語が分岐する(かもしれない)ような重要な場面でのみ使用してます。 具体的な運用のアドバイスとしては、 馴れるまでは各シーンごとに最も重要な問題についてだけでコンテストを行って、 それによって次のシーンへ進むものと考えてください。 その目標を達成する行為が複数のタスクに分割できるとしても通常シーンならば、 それらの中で一番難易度が高いもの、 もしくは一番面白くなりそうな事のみをコンテストの対象として残りは話し合いで解決します。
それでは、 それぞれのコンテストの詳細を順次説明していきたいと思います。
●自動成功
HeroQuest では多くの行動の成否は話合いの中で決めていきます。 物語上でたいして重要でない部分では判定は必要ありません。 例えば戦闘のような危険をともなう行為であっても物語上重要でないと感じるならば自動成功(Automatic Success)として処理します。 形式的に行うならば自動成功は以下の手順で解決します。
- プレイヤーはキャラクターがどのアビリティを使って何を達成しようとしているかを宣言します。
- ナレーターは自動成功を宣言します。 勝利レベルが問題になる場合には通常勝利 として扱います。
- そのキャラクターがヒーローポイントを 1ポイント支払えば結果を完全勝利扱いに変更できます。
- 何が起こり結果どうなったかを話し合って決めます。
さらに、 もう一つ自動成功の大切な使い方があります。 それは失敗した際の分岐先では物語が面白くなりそうにないと感じる場合です。 もし失敗するとその後の展開がつまらなくなると思った場合や、 失敗後の物語の展望が全くない場合には迷わず自動成功で処理してください。
●単純コンテスト
最も一般的な判定方法が単純コンテスト(Simple Contenst)です。 HeroQuest ではほとんどの戦闘場面も単純コンテストで処理します。 合戦のように多数の参加者がいる場合でも通常は代表者(リーダー)による単純コンテストで結着させます。 より複雑な拡張コンテストを使うのは敵首領との決戦のような物語上で重要な山場だけです。
単純コンテストは以下の手順で解決します。
- コンテストの枠組を決める
- 使用するアビリティに修正値を適用する
- ナレーターが抵抗値を決める
- プレイヤーとナレーターがそれぞれ d20 を振って成功/失敗を決める
- マスタリーやヒーローポイントによる繰り上げ/繰り下げをを適用する
- 双方の成功度を比較して勝利と敗北を決定する
- 継続効果を決め結果を描写する
●1. コンテストの枠組を決める
コンテストを開始するにあったてプレイヤーとナレーターは以下のようなコンテストの枠組を明確にします。
戦利品を定める(naming the prize): 抽象的に何を獲得しようとしているか目標を明確にします。 戦利品は実際の品物の獲得だけではなく権利の獲得や何らかの有利な状況をもたらすため、 敵の行動を妨害するためなど様々に決めることができます。
戦術(Tactics): 定めた目標を獲得するためにどのような手段を取るのか考え、 それが適切なものになるようにナレーターと相談して決めます。 その際にどのキャラクターがどのアビリティを使用するかも一緒に決めます。
敵対者または抵抗: その戦術において敵対者はいるのか、 いたとしてその敵対者の目的は何か、 または自然の障害はあるのか、 失敗したらどうなるかなどの状況をナレーターの視点から説明します。
●2. 修正値
使用するアビリティの数値に修正値(Modifiers)を適用して最終的な数値を決定します。 修正値には特化アビリティボーナス、 状況修正、 拡大解釈ペナルティ、 別のアビリティでによる増強、 プロット増強など様々なものがあります。
●3. 抵抗値
HeroQuest のコンテストでは必ずプレイヤーとナレーターの双方がダイスを振ります。 この時にナレーター側の目標値のことを抵抗値(Resistance)といいます。 一般に障害の主な要因が NPC やモンスターの場合にはそのアビリティを抵抗値とします。 自然の障害の場合にはその特性が抵抗値になります。
普通の RPG ならばシナリオであらかじめ敵の強さや崖の高さなどが決められていて、 これらが行為判定の目標値になりますが、 HeroQuest ではシナリオであらかじめ目標値を決めておくことはしません(そもそも決まったシナリオに従って進むことが少ないですし)。 抵抗値は物語上の要請に従ってその場で決めます。 ぶっちゃけて言えば成功した方が面白そうか、 失敗した方が面白そうかによって即興で目標値を決めます。 そしてなぜその目標値なのかは後付けで理由を考えます。 例えば簡単な崖登りの難易度を高くしたい場合には、たまたま凍りついていたり、 登っている途中に急に突風が吹いてきたりするわけです。
●4. ダイスを振る
それぞれ決めたアビリティと抵抗値を目標値にしてプレイヤーとナレーターは 20面ダイス(d20) を振ります。 そしてその出目で以下のように成功度を決定します。 この時点ではマスタリーは無視して数値の部分だけ判定してください。
クリティカル: ダイスの出目が 1 ならば目標値に関係なくクリティカルです
成功: ダイスの出目が 2 以上で目標値以下ならば成功です
失敗: ダイスの出目が目標値より大きく 19 以下ならば失敗です
ファンブル: ダイスの出目が 20 ならば目標値に関係なくファンブルです
後でダイス目が必要になることがありますので、 ダイスは取り除かず出た目のまま残しておいてください。
●5. 繰り上げ
成功度が決まったら以下の手順で、 成功度の繰り上げ(bump up)または繰り下げ(bump donw)を適用します。
- 双方がマスタリーを所有している場合は同じ数だけマスタリーを相殺します。 結果としてどちらもマスタリーがないか、 片方だけがマスタリーを持っている状態になります。
- マスタリーが残っている方は、 マスタリー 1つにつ 1段階成功度を繰り上げます。 ファンブルが失敗になり、 失敗が成功になり、 成功がクリティカルに上昇します。 クリティカルより上はありません。
- 自分の成功度をクリティカルまで上昇させてもまだマスタリーが残っているならば、 相手の成功度を繰り下げることができます。 残っているマスタリー 1つにつき 1段階相手の成功度を繰り下げます。 ファンブルより下はありません。
- ヒーローポイントを消費することにより、 1ポイントにつき自分の成功度を 1段階繰り上げることができます。 単純コンテストならば 1度に何ポイント使っても構いません。 自分の成功度を上げるためにしか使えず、 味方を成功度を上げたり相手の成功度を下げるためには使用することはできません。 この際に従者(followers)は自分の一部とみなします。
●6. 勝敗の決定
双方の成功度を比べて勝敗を決定します。成功度の 1段階の差があれば「通常勝利」と「通常敗北」になります。 成功度に2段階の差があれば「大勝利」と「大敗北」、 3段階差があれば「完全勝利」と「完全敗北」です。
成功度が同じならばダイス目を比べて出目が小さい方が「ぎりぎり勝利」に大きい方が「ぎりぎり敗北」になります。 ダイス目まで同じならば「引き分け」です。 ナレーターは両方がファンブルした場合は状況によって双方を「ぎりぎり敗北」と判定しても構いません。
まとめると以下の表のようになります。 この表ではPC側から見た勝敗を示しています。 相手側は反対の結果になります(PCが大勝利ならば相手は大敗北になります)。
PCの成功度 | 相手の成功度 | |||
---|---|---|---|---|
クリティカル | 成功 | 失敗 | ファンブル | |
クリティカル | *1 | 通常勝利 | 大勝利 | 完全勝利 |
成功 | 通常敗北 | *1 | 通常勝利 | 大勝利 |
失敗 | 大敗北 | 通常敗北 | *1 | 通常勝利 |
ファンブル | 完全敗北 | 大敗北 | 通常敗北 | *2 |
*1: 双方のダイス目を比べて小ければ「ぎりぎり勝利」、 大きければ「ぎりぎり敗北」、 同じならば「引き分け」
*2: 「 引き分け」(もしくは双方が「ぎりぎり敗北」)
《続く》
単純コンテストの説明の途中ですが今回はここまでとします。 残りの「7.継続効果の決定と結果の描写」は次回の頭で説明する予定です。
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