2014年6月7日

HeroQuest紹介(2) - RPG システム論

●ナラティブRPGって何もの?
早速 HeroQuest のルールの中身の紹介に入りますと言いたいとことなのですが、 そうも行かないのが難しいところです。HeroQuest ナラティブRPGと呼ばれる比較的新しい種類の RPG に分類されるのですが、 このタイプは少なくとも日本ではあまり知ら れていないようです。 よく知られた一般的なRPGの常識で読まれてしまうと判らなくなってしまうので、 今回はナラティブRPGとは何かについて説明をしたいと思います。

ナラティブRPG? よく知ってるよ!  とか、 普段からナラティブRPGを遊んでるよという人は今さらなので、 今回(と多分次回も)の記事は軽く読み飛ばしてください、 もしくはまだまだ理解の足りていない私に色々教えてください。 全く知らないという人や聞いたことあるけど、 よく理解できていないという人向けに、 まずは「ナラティブ」について説明したいと思います。


●RPGシステム論
全く知らない人に「ナラティブ」について説明するは結構難しいです。 概念的な話だし色々と枝葉が広がっているので悩んだのですが、 結局遠回りのようですがRPGの歴史を遡っ て「RPGのシステム論」から入るのがRPGのナラティブについて説明するには良いのではないかと思い至りました。HeroQuest の解説としては脱線な感じになりますがお付き合いください。

むかし、 むかし(と言っても1990年代の終り頃のことですが)、 とある所で(と言っても インターネット上のネットニュースや掲示板などですが)、 いつものようにいつものごとく RPG のシステム論が繰り広げられていました。

曰く「このゲームシステム は他に比べて優れている」、 「目指すべきRPGのゲームデザインとはどのようなものか」 、 「究極のRPGとはどのようなものか」、 「俺の遊んでるやつで十分。 新しいRPGを作る必要などない」などなど。

ご想像の通り、 このような議論に正解が出るわけもなく議論はいつまでも続くのでした。
そのような流れの中で、 何故この議論に結論が出ないのか論理的に考えようとする人たちから仮説が提案されようになりました。


●三面モデル(Threefold Model)とは?
議論の中で Threefold Model  (三面モデル)というものが提唱されました。 その理論では RPG に究極のシステムがない理由を簡単に書くと以下のように説明しています。

RPGを遊ぶ人は以下の三種類に分類される。
  • ゲーミスト(Gamist):  公平な条件の元でプレイヤーどうしで、 いかにうまくやるかを競い合うゲームとして価値を見い出すスタイル 

  • シミュレーショニスト(Simulationist):  背景設定に基いて人物や事件を配置してルールに従って動かし、 それが正しくリアルに推移していくことに価値を見い出すスタイル 

  • ドラマティスト(Dramatist):  個人的に満足いく物語(ストーリー)が創り出されることに価値を見い出すスタイル
各々のゲーマーがこの三種類のどれかに完全に分類されるといわけではなく、 それぞれの成分の混合になっていて、 その割合は人によって異っている。 これらの目標は互いに対立する部分があり、 どれかの目標に近づけることは他の目標から遠ざかることになる。 これが究極のシステムが存在しない理由である。

人ごとに各要素の指向が異なっているので最適なシステムは人ことに異っていて当然、 どれが上とか下とかないし、議論しても仕方ないというわけです。

Threefold Model についてもっと詳しく知りたい人は以下の記事(英語)を参考にしてください。
  英語版Wikipediaの記事: http://en.wikipedia.org/wiki/Threefold_Model
  Threefold Model FAQ:   http://www.darkshire.net/~jhkim/rpg/theory/threefold/


●GNS Theory (GNS 理論)
上記のモデルを発展させて Ron Edwards (SorcererというRPGのデザイナとして有名)はプレーヤーの行動やゲームデザインについて以下のような GNS理論(GNS Theory)を提唱しました。

RPGを遊ぶ時には各状況の判断において以下のような3種類のアプローチがある。
  • ゲーミスト(Gamist):  競技や戦いに勝つ可能性を最大にするよう行動する。 このタイプは障害を克服し明確な目標を達成することに満足を覚える。 Rifts や Shadowrun など が向いている。 

  • ナラティビスト(Narrativist):  キャラクターの動機や行動を通して良い物語を作る ように行動する。 このタイプは Over the Edge, Prince Valiant, The Whispering Vault, Everway などが向いている。 

  • シミュレーショニスト(Simulationist):  システムが偽りのない小さな世界を創るこ とに満足する。 GURPS や Pendragon が向いている。
この三種類の目的は同時に満たすことはできない。 例えばシミュレーショニストはリアルな過程が演出できるのならばルールが複雑になり行動判定に時間がかかることを許容するけれど、 ゲーミストは勝ち負けに関係ないところに時間をかけたくないし、 ナラティビストも物語上重要でないことには興味がない。

RPG という遊びは GMとプレイヤーの工夫次第でどんな遊び方もできるのでゲームシス テムは関係ないと言う人もいるけど実際はゲームシステムは重要である。 問題なのはゲームシステムがこの三つの矛盾する目標を同時に満たそうとしている点にあり、 ゲームデザイン上の最大の失敗である。 そのせいで誰も満足しない結果になっている。

単純なプレイヤーの分類にとどまらず、 プレイヤーの行動選択やゲームデザインにまで話しを広げています。

GNS Theory について、より詳しく知りたい場合には以下を参考にしてください。
  英語版Wikipediaの記事: http://en.wikipedia.org/wiki/GNS_Theory
  Ron Edwards の文: http://www.indie-rpgs.com/_articles/system_does_matter.html


●RPGの面白さをもっと分類してみる
要はRPGの楽しみ方には色々あり一つのシステムで全ての楽しみ方を満足させることはできないといことですね。 上記の例はどちらも典型的に三種類に分類していますが、 実際のRPGの楽しみ方はもっと多様であり、 その後も色々な分類や理論などが提案されいます。

それらを一つ一つ紹介していってもキリがないですし本筋でもありませんので、 私が勝手に RPG の面白さについて色々と分類してみたいと思います。 細部には多々異論があるとは思いますしもっと良いやり方もあるだろうと思いますが、 あくまで話の流れなので大目に見てください。
  • ゲーム(Game)の楽しみ: 選択肢を選び目標を達成すること、 それがいかに巧くできるかを他人と競い合う楽しみです。 敵に勝利し、 レベルを上げ、 目標を達成し、 シナリオをクリアすることを目指す楽しみです。 単に勝つことではなく公平なルールの中で腕を競うことを目的とします。 究極的にはチェスとかトランプとかと同じ楽しみと言えます。 
  • 探索(Exploration)の楽しみ: 知らない場所や新しい世界を旅して、 新しい知識や経験を得る楽しみです。 好奇心を満たすことは楽しいですよね。 これは実世界を旅行する楽しみと同じ楽しみといえます。 実際には旅できない仮想の世界を RPG を通して旅しているのです。
  • シミュレーション(Simulation)の楽しみ: 仮想的な現実を作って模倣し実験することの楽しみです。 実験するというは楽しいことです。 単純なルールが多様な世界を作り出していく様子はわくわくしませんか? コンピュー ターの物理シミュレータや、 化学の実験や、 歴史のifを議論したり、 ピタゴラ装置とか、 そういのと同じ楽しみですね。
  • 演技(Roleplay)の楽しみ: 他人を演じる楽しみ。 日常を離れて自分でない誰かを演じるのは楽しいものです。 ドラマのかっこいいセリフをまねしたり仮装(コスプレ)するのもこの範疇ですね。 究極的には演技を誰かに評価してもらう舞台役者や映画俳優の楽しみです。
  • 経験(Experience)の楽しみ: 普段の自分ではできない経験をする楽しみです。 上記の演技(ロールプレイ)の楽しみとよく似ていますが、 こちらはプレイヤーの動機や経験をキャラクターに重ねている点が異っています。 他人に演じて見せるのではなく自分のままで経験をすることを重視します。 多くの人はみじめな経験はしたくないと考えているので、 より良い経験をしようと努力する楽しみも含みます。 よく勘違いされますがゲームの中で「俺つえー」したがる人はゲームとしての楽しみではなくこの経験の楽しみを重視していることが多いです 。
  • 物語(Story)の楽しみ: これは説明するまでもないと思いますが、 面白い小説を読むのと同じ楽しみです。 ここでは RPG 的にゲームマスターやゲームシナリオが提供する物語や、 ゲームシステムから偶然できあるがる物語を聞き手として楽しむことを指します。
  • ナラティブ(Narrative)の楽しみ: これもストーリー指向として上記の物語を聞く楽しみと一緒にされてきたのですが、 最近では別ものとして分類されることが多いです。 こっちは 「物語を語ること、 物語を共有することの楽しみ」 と説明されます。 単に聞き手として楽しむのではなく、 物語に参加する楽しみ。 物語の紡ぎ手として、 みんなで同じ物語を共有する楽しみです。 RPG ならでは楽しみと言えるかもしれません。
  • ドラマ(Drama)の楽しみ: ここで言うドラマは芝居のことではなく、 ドラマチック(感動的)とかそいう意味のことです。 人間は感情を揺さ振られるのが好きです。 一人だけで怒ったり悲しんだりするのはあまり好きではないのが普通ですが、 みんなで怒ったり怖がったり喜んだりして同じ感情を共有するのは本能的に大好きです。 小説も映画や芝居の脚本などもいかに読者/視聴者の感情を揺さ振るかといことに気を配っています。
  • キャラクタ(Character)の楽しみ: これはどう名前をつけるか迷ったのですが、 人物を創る、 人物を成長させる、 愛着し、 蒐集したりする楽しみです。 実際には人物だけじゃなくて集団や事物、 さらに世界や歴史とかの抽象的なものまで対象になりますが、 もうキャラクター的なものを愛でるのは人間の本能なんじゃないかと思います。
考えれば、まだまだ色々あるかもしれませんね。 普段遊んでいる RPG を考えてみてゲーム システムや背景世界としてどの楽しみを重視して提供しているのか、 またゲームマスターやプレイヤーまかせにしているのはどの部分かなど分析してみるのも面白いかもしれません。


●そしてナラティブRPGが登場
少し脱線が過ぎたかもしれませんが、 RPG には色々な楽しみ方があり、  一つのシステムで これら全てを満たすのは難しいことは理解してもらえたと思います。 それどことか一つのシステムで色々やろうとすると、 どっちつかずの中途半端なものになってしまうということならば特定の要素を中心に据えたシステムが有れば良いという結論になります。

RPG の色々な楽しみの中で「ナラティブ」の要素を重視したいのならばナラティブを中心に据えたシステムが必要ということになります。 このような流れの中で生まれたのがナラティブRPGです。 一見して古典的な「普通の」 RPG と同じようなものに見えるかもしれませんが、 遊び方の目的とするものが違っているのです。

最近はナラティブは流行なので普通の RPG に少しナラティブ要素を取り入れているものも多くありますがそういうもの全てがナラティブRPGというわでではありません。 例えば 「行為時に物語を語ったらボーナスがつく」ようなシステムがあっても、 それはナラティブRPGではありません。本物のナラティブRPGならば物語を語ること自体が究極の目的なのでボーナスなどは必要ないのです。 一方でどんなに普通の RPG に似たシステムを整備し ていても、 プレイヤーが物語を創り出すこと(少なくとも創り出した思わせること)を主な目的としたシステムはナラティブRPGになります。


●HeroQuest Core Rule
そして、 この連載で紹介しようとしている HeroQuest Core Rule は完全なナラティブRPGです。 ようやく話しが戻って来ましたが、 HeroQuest がどれくらい完全なナラティブRPG かというと、 上記の私の分類でいう 「ナラティブ」 「ドラマ」 の楽しみの部分だけを残して、 残りの要素をルールから完璧に排除してしまったくらいナラティブ専用です。 通常はナラティブRPGと言ってもゲーム要素やシミュレーション要素など他の要素が少しは残っているのが普通なのですが、 HeroQuest Core Rule はナラティブ要素と他の要素が対立する可能性があるならば他は無くしてしまえといった感じで、 いさぎよいくらい混りものゼロのナラティブ専用ルールになっています。

《続く》
いつまでもルールの話になりませんが、 次回ももう少し脱線を続けてナラティブRPGの遊 び方とかその辺を書いてみようと思います。

5 件のコメント:

  1. す、すごい‥‥‥めっちゃわかりやすくてためになります。三面モデル、GNS理論なんて潮流があるなんて知りませんでした。内容にも納得です。
    個人的には、GNS理論のシミュレーショニスト向きにPendragonが上げられてるのがちょっと意外でもあり、なおかつ合点が行くところでもありました。

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  2. なるほど、ナラティブRPGというのは初めて聞いた話で、プレイヤーの楽しみ方から分類するというのも初めてで、とても興味深く思えました。次も楽しみにしています。

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  3. Three Fold とか GNS とか、それ自体はすごくもなんともないと思いますよ? 「マンチキンって何」と同じようなもので、みんながなんとなく意識していたものを文章にしただけに見えます。

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  4. 読んでいただきありがとうございます。

    >lain hwarinさん
    Pendragon の感情ルールは人間の感情をシミューレートする試みなので、そんな分類になるのだと思います。あとナラティビストのところにある同じグレッグ作でアーサー王をテーマにした Prince Valiant RPG と対比させる意味もあるのでしょう。

    >yukuhitoさん
    ありがとうございます。自信はありませんが、がんばります。

    >NiKeさん
    そんなものですよ。こういうのは名前を付けることに意義があるとかそんな感じです。あまり難しく考えずに自分だったらどう説明するか考えてみるのが面白いかもしれません。

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  5. ああ、やっぱりあったんだ。こういう考え方。
    それにしてもこの説明、分かりやすい~

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