2014年6月30日

HeroQuest紹介(9) - 拡張コンテスト

●拡張コンテスト
普通の判定は単純コンテストで十分ですが、 時には映画のクライマックスシーンのような一進一退の攻防を時間をかけて演出したいと思うかもしれません。 そのような場合に使用するのが拡張コンテスト(Extended Contest)です。

拡張コンテストは物語の山場においてその勝敗によって物語の行方が大きく変ってしまうような転換点でのみ使用します。 戦闘シーンだからとかサスペンスシーンだからといって安易に拡張コンテストを使用し過ぎないように注意してください。 物語上においてその勝敗を全員が固唾を飲んで見守る、 その進行に一喜一憂するそういった特別な状況でのみ使用します。

拡張コンテストにも1対1のものと、 複数の参加者で行う集団拡張コンテストが存在しますが、 まずは1対1で行う通常の拡張コンテストを説明します。 手順は以下のような流れになります。
  1. コンテストの枠組を決める
  2. ラウンドごとにエクスチェンジを繰り返す
  3. どちらが解決ポイント(RP)を 5ポイント獲得したら最終結果を決める
おおまかに言えばラウンドごとに単純コンテストを繰り返して解決ポイントを獲得し、 早く 5ポイントを獲得した方が勝ちということです。


●エクスチェンジ
拡張コンテストにおけるラウンドごとの判定をエクスチェンジ(exchange:応酬)と言います。 エクスチェンジの方法は単純コンテストと同じで、 ラウンドごとにその戦術と使用するアビリティを決め、 アビリティに対する修正があれば適用します。 ナレーターはその戦術に対する対抗値を決めてダイスを振ります。 その結果を元に解決ポイントを獲得します。

ヒーローポイントで各エクスチェンジの成功度を繰り上げることができますが、 制限として拡張コンテストではエクスチェンジごとにヒーローポイントを 1ポイントしか使用できません。

エクスチェンジに勝利した場合に得られる解決ポイントは集団単純コンテストと同じく、 完全勝利なら 5ポイント、 大勝利なら 3ポイント、 通常勝利なら 2ポイント、 ぎりぎり勝利ならば 1ポイントになります。 引き分けの場合は双方 0ポイントになります。

解決ポイントを獲得したということは、 それだけ勝利に近付いたという意味になります。 戦闘ならば相手を負傷させたとか、 有利な位置を占めたとかいった具合です。 エクスチェンジごとに何が起こりどのような結果になったかを描写するようにしてください。 ただし、 この時点で最終的な影響は確定していないため決定的な描写は行なわないよう注意してください。 例えば 「強烈な打撃により骨が折れた」 と描写するのではなく 「強烈な打撃により骨までいったかもしれない」 といった感じにします。


●最終結果の判定(拡張コンテスト)
獲得した解決ポイントの合計が先に 5ポイントに達すれば、 相手側の獲得しているポイントにかかわらず勝利します。 勝敗の度合はその時の双方の獲得した解決ポイントを元に拡張コンテスト結果表を使って決めます。 拡張コンテスト結果表にはライジング・アクション用のものとクライマックス・シーン用のものと二種類あります。


●ライジング・アクション結果表
ライジング・アクションというのは脚本用語で物語が昇りつめて行く途中段階を意味します。 要はクライマックス以外の途中シーンを意味すると思ってください。 シナリオの最後のクライマックス以外で拡張対決を行った場合には以下の 「ライジングア・クション結果表」 を使用して結果を決めます。 双方が獲得した解決ポイントの差分を元に決めるため極端な勝利や敗北は発生し難くなっています。

差分結果継続効果ボーナス/ペナルティ
+7以上完全勝利継続ボーナス+9
+5,+6大勝利継続ボーナス+6
+4,+3通常勝利継続ボーナス+3
+2ぎりぎり勝利なし0
+1ぎりぎり勝利かすり傷-3
0引き分けかすり傷-3
-1,-2ぎりぎり敗北かすり傷-3
-3,-4通常敗北軽傷-6
-5,-6大敗北重傷自動繰り下げ
-7完全敗北瀕死行動不能
-8以下完全敗北死亡死亡

●クライマックス・シーン結果表
主にシナリオの最後の山場にあたるクライマックス・シーンでは結果を決めるのは以下の表を使用します。 ライジング・アクションとは違い解決ポイントの差分ではなく相手が獲得した解決ポイントそのままで被害状態が決まります。 これは敵味方の双方に被害が出る可能性があることを示しています。
相手の解決ポイント被害状態
9以上死亡
8瀕死
6,7重傷
4,5軽傷
2,3かすり傷
1めまい
0なし

たいていは最終シーンなので詳細勝利レベルを決める必要はない場合も多いのですが、 決める必要がある場合は以下の表により相手の受けたダメージに基いて勝利レベルを決めます。

相手の被害状態勝利レベル
死亡/瀕死完全勝利
重傷大勝利
軽傷通常勝利
かすり傷ぎりぎり勝利

例えば、 解決ポイントが 5対4 の状態で勝利した場合には、 自分が軽傷を負い、 相手も軽傷で通常勝利となります。 解決ポイントが 2対8 で敗北した場合には自分が瀕死となり相手がかすり傷で相手の完全勝利(自分は完全敗北)になります。


●集団拡張コンテスト
拡張コンテストでも 1対1 ではなく多数の敵味方が入り乱れての乱戦を演出したい場合があります。 そのような時に使用するのが集団拡張コンテストです。 他のコンテストに比べて時間がかるので本当に重要な場面でのみ使うようにしてください。 集団拡張コンテストは以下の手順で実行します。
  1. コンテストの枠組を決める
  2. 敵と味方の組み合わせてペアにする
  3. ラウンドごとにペアどうしでエクスチェンジを繰り返し相手を排除する
  4. 片側のコンテスト参加者がいなくなったら最終結果を決める
以下もう少し詳しく説明してます。


●対戦するペアを決める(集団拡張コンテスト)
コンテストの枠組(目的や参加者)が決まったら、 参加者を敵と味方で 1対1 のペアにします。 だれとだれが戦うかは状況に合わせて相談して決めます。 片方のみが飛び道具で攻撃するような一方的な状況の場合でも攻撃者と防御者でペアを形成します。

この時に複数の敵と同時に戦いたい場合には一人が複数のペアに参加できます。 例えば3人と同時に戦いたい場合には 1対1 のペアを 3組つくります。 ただし複数の相手と戦う場合には、 二人目の相手には -3、 三人目の相手には、 -6, 四人目の相手には -9 という具合にペナルティがつきます。 誰を一人目として誰を二人目とするかとかは担当のプレイヤーが自由に決めて構いません。


●エクスチェンジ(集団拡張コンテスト)
対戦ペアが決まったら、 その組み合わせで通常の拡張コンテストと同じようにエクスチェンジを繰り返します。 どのペアから解決するかは特に重要ではないので席順とか楽な順番で処理してください。

複数の相手と同時に戦う場合でも解決ポイントはペアごとに個別に計上しこの時点では合算はしません。 特定の相手に対して解決ポイントを 5ポイント獲得したらならば、 行動不能や戦線離脱などにより、 その相手はコンテストから除外されます。

そして全部のペアの判定が終ったら、 そのラウンドに何が起こったかを話し合って決めます。


●最終結果(集団拡張コンテスト)
どちらかの側の参加者が全て除外されるとコンテストは終了します。 コンテストの最終結果がどうなったか相談して決めてください。

通常の拡張コンテストと同じライジング・アクション結果表やクライマックス・シーン結果表を使って各キャラクターの継続効果を決めます。 複数の相手と戦った場合にはライジング・アクションならば、 それぞれを個別に計上します。 クライマックス・シーンでは被った解決ポイント全てを合計した上で表を参照します。 このためクライマックス・シーンではコンテストに勝利したのに重傷や死亡することもあります。

最終的な勝利レベルを決める際に複数の敵がいた場合には最も手強い相手のものを基準に決めます。


《続く》
次回はコンテストにおける修正値と抵抗値について説明する予定です。

2014年6月27日

HeroQuest紹介(8) - コンテスト(続き)

●7. 継続効果と結果

コンテストの勝敗が決まったら、 それを解釈し結果を描写します。 勝敗レベルはだいたい以下のような意味になっています。

完全敗北: 決定的な敗北により再起がとても困難な状況
大敗北: 目標を達成できないだけでなく大きな被害を被る状況
通常敗北: 明確に敗北し目標を達成できない状況
ぎりぎり敗北: ほんのわずかな差でぎりぎり目標を達成できない状況
引き分け: 状況に変化がないか双方が同じだけ獲得または損失している状況
ぎりぎり勝利: ほんのわずかな差でぎりぎり目標を達成できた状況
通常勝利: 明確に勝利し目標を達成した状況
大勝利: 目標を達成しただけでなく副次効果が残り続ける状況
完全勝利: 決定的な勝利により後まで重大な影響が残る状況

またコンテストの結果として最初の枠組で決めた目標を達成できたかどうかに加えて、 その勝敗の度合によって後まで影響が残り続ける継続効果(Consequences)が発生します。 敗北した側は被害状態(States of Adversity)を、 勝利した側は継続利益(Lingering Benefits)を得る可能性があります。 勝敗に加えて続いて説明する継続状態を元に、 どのような過程をたどってどういう結果になったかを相談して決めてます。


●被害状態
コンテストは敗北した側はその敗北の度合によって被害状態((States of Adversity)を被ります。 これは後々にまで残る不利な修正で、 例えば負傷などとして演出されます。 戦闘などの肉体的な行動の場合には通常の身体ダメージになりますが、 コンテストの性質によっては精神的なダメージや、 金銭的なダメージ、 社会的な信用や評判に対するダメージなど様々に解釈してください。 芸術などの内面的なコンテストなどの場合でも自信に対するダメージなどとして演出できます。 ほかにも被害状態を道具が壊れたり資源を失ったりという形で表現することもできます。

単純コンテストの被害状態は敗北レベルによって以下のように決まります。 複数のコンテストにより複数の被害状態を受けた場合その効果は累積します。

勝敗レベル被害状態ペナルティ
勝利・引き分け健康なし
ぎりぎり敗北かすり傷-3
通常敗北軽傷-6
大敗北重傷自動繰り下げ
完全敗北瀕死行動不能

    健康(Healthy): 特に問題のない状態です。 戦闘の結果として痣ができていたり服が破れていたりなどの外見の変化はあるかもしれませんが不利な修正はありません。

    かすり傷(Hurt): ちょっとした傷を受けた状態です。 その傷に関連したアビリティ全てに -3 のペナルティを受けます。 セッションの終り、 もしくはゲーム内で傷ごとに1日程度の休息を取ることにより回復します。

    軽傷(Impaired): 大きな衝撃を受けた状態です。 その傷に関連したアビリティ全てに -6 のペナルティを受けます。 回復魔法のような回復イベントを行うか、 傷ごとに1週間の休息を取ることにより回復できます。

    重傷(Injured): 深刻なショックにより無防備な状態になります。 今後何か行動をしようとするごとに傷に対して気力コンテスト(contest of wherewithal)で勝利する必要があります。 「体力」とか「鉄の意志」とか「主君への忠誠」などの適切なアビリティで、 中くらいの難易度に対抗する必要があり敗北したら行動できません。 勝利すれば行動は可能ですが、 ほとんどのアビリティに自動繰り下げが適用されます(気力コンテストで大勝利や完全勝利した場合にのみ自動繰り下げは適用されません)。

    瀕死(Dying): 再起不能の状態で何も行動できず、 そのまま放置されて助けてもらえなければ、 そのまま死亡します。 助けるためには他の PC は時間おかずに回復関連のアビリティで困難なコンテスントに勝利する必要があります。 コンテストに勝利すれば重傷まで回復(完全勝利ならば軽傷まで回復)しますが、 敗北したらそのまま死亡します。

    死亡(Dead): 肉体的なダメージの場合は実際の死を意味します。 即死ではなく死ぬ前に言葉をかわしたり、 最後の行動を行うくらいのことはできます。 肉体的なダメージ以外の場合には実際に死ぬわけでありませんが比喩的な意味での死亡となり、 傷に関係したアビリティは永久的に使用不能になります。 比喩的な死亡であってもナレーターはそのPCをゲームから取り除く決定をすることができます。 その場合はショックにより旅に出たり、 発狂により隔離されたり、 長期投獄されたり、 破産して隠退したりといった形で処理します。


●継続利益
逆に大きく勝利した側は目的の達成に加えて継続利益(Lingering Benefits)を得ることができます。 これはコンテストに関係したアビリティに対する継続的なボーナスとして獲得します。 コンテストに使用したアビリティそのもでなくても理由が説明できれば別のものにすることもできます。 どのアビリティに利益を得るかをナレーターと相談して決めてください。 ちょっとしたコツを掴んだとか、 相手の弱点に気付いたとか、 有利な道具を手に入れたとか、 敵に恐怖を植えつけたとか、 モンスターの持っていた財宝を入手したとか色々と考えてみてください。

勝敗レベル継続効果ボーナス
完全勝利継続ボーナス+9
大勝利継続ボーナス+6
通常勝利継続ボーナス+3
ぎりぎり勝利なしなし

この継続ボーナスはその状況が相応しくなくなるか、 ボーナスを適用したアビリティを使用して敗北するまで継続します。 ボーナスを適用可能な状況では必ず適用しなければならずわざとボーナスを使用せずにおくことはできません。


●アビリティの選択
以上が単純コンテストのやり方になります。 説明が少し長くなりましたが実際にやってみるととても簡単であることがわかると思います。 運用にあったて一番問題になりそうなのがアビリティの適用だと思うので、 その点を補足したいと思います。

アビリティの説明のところでも少し書きましたが、 HeroQuest のアビリティは広く応用が効くものだと思ってください。 各キャラクターは 10個強のアビリティしか持っておらず、 それを使ってあらゆる困難に立ち向っていく必要があります。 このため厳格な運用をし過ぎると何もできなくなってしまいます。

なぜそのアビリティが使えるのかどうやって使うのかについて説明がつきさえすれば、 ペナルティ無しで応用できるものと考えてください。 判断基準としては小説などの物語の中でそういう説明がなされたとして読者が 「いかにも有りそう」 とか 「そいういうことも有るかもね」 と言って納得してくれるかどうかだと考えると良いでしょう。 このため応用可能な範囲は物語のジャンルやモードによって異なります。 コメディやスーパーヒーローものなら幅広い応用が可能かもしれませんが、 現代サスペンスものならばそこまで広い応用はできないかもしれません。

アビリティの選択する際にはそれがどのような演出になるかについて考えるようにしてください。 同じ剣を使った戦闘場面でも少年が「猪突猛進」を使った場合と、 ベテラン海兵が「海の男」を使った場合では状況描写が全く違ったものになることはイメージできると思います。 ナラティブRPGとしては勝率にこだわるのではなく、 このような演出の違いを楽しむのが良い遊び方です。


●集団単純コンテスト
次に集団単純コンテスト(Group Simple Contest)について説明します。 通常の単純コンテストは一人のプレイヤーの行動を対象にしています。 しかし場面によっては複数のPCが力を合わせて一つのことを為し遂げようとすることもあります。 このような場合に使用するのが集団単純コンテストです。

集団単純コンテストはプレイヤー側の参加者が多いだけで普通の単純コンテストと大きな違いはありません。 各プレイヤーが 1回づつ、 ナレーターは参加人数分だけダイスを振って結着をつけます。 判定手順も原則的には普通の単純コンテストと同じ流れですが、 少し違う部分がありますのでそこを説明します。

  1. コンテストの枠組を決める: 単純コンテストと同じですが、 最初の枠組を決める際に誰が参加者するのか、 それぞれがどのアビリティを使用するのかを決めます。
  2. 使用するアビリティに修正値を適用する: 単純コンテストと同じですが、 PCごとに異なる修正値が与えられる可能性があります。
  3. ナレーターが抵抗値を決める: 抵抗値は全参加PCで同じ数値を使います。 人数が多くなると目標達成が簡単になる部分は抵抗値を下げることで対応します。
  4. d20を振ってそれぞれ対決し成功度を決める: 参加プレイヤーごとに1回 d20 を振ってナレーターと対決します。 ナレーターは参加 PC  ごとにダイスを振ることになります。
  5. 勝敗の結果を決める: 参加 PC の成功度を解決ポイントという数値に変換して合計して結果を求めます。 詳しくは以下で説明します。
  6. ヒーローポイントを使って繰り上げする: 必要なヒーローポイントの量が普通の単純コンテストとは異なります。 詳しくは以下で説明します。
  7. 継続効果を決め結果を描写する

●解決ポイント
個々の対決で勝利した側は解決ポイント(RP: Resolution Point)を獲得します。 完全勝利なら 5ポイント、 大勝利なら 3ポイント、 通常勝利なら 2ポイント、 ぎりぎり勝利ならば 1ポイントを獲得します。 敗北した側は 0ポイントです 引き分けの場合は双方 0ポイントです。

勝利した側の解決ポイントをまとめると下記の「解決ポイント表」のようになります。

クリティカル成功失敗ファンブル
クリティカル1235
成功2123
失敗3212
ファンブル5320


●コンテスト結果表(集団単純コンテスト)
集団単純コンテストでは参加キャラクター全員の獲得した解決ポイントを合計し、 それから相手側の獲得した合計を引いて差分を用いて以下の表で最終結果を求めます。

差分総合結果継続効果ボーナス/ペナルティ
+5以上完全勝利継続ボーナス+9
+3,+4大勝利継続ボーナス+6
+2通常勝利継続ボーナス+3
+1ぎりぎり勝利かすり傷-3
0引き分けかすり傷-3
-1ぎりぎり敗北かすり傷-3
-2通常敗北軽傷-6
-3,-4大敗北重傷自動繰り下げ
-5以下完全敗北瀕死行動不能

表にあるように集団コンテストでは勝利したのに被害を受けることもあります。 継続効果は物語の状況に応じて参加した全キャラクターに与えても良いですし、 特に活躍したり失敗したキャラクターのみに与えても構いません。 どのような結果になったかを相談して決めてください。


●ヒーローポイント(集団単純コンテスト)
集団単純コンテストではヒーローポイントの使い方が少し異っています。 全員の解決ポイントを合計して差分から結果を求めた後でヒーローポイントを使うかどうか決めることができます。

参加キャラクターの人数の1/3(端数切り上げ) 以上のヒーローポイントを支払えば結果を 1段階良くすることができます。 このヒーローポイントは参加キャラクターならば誰が何ポイント支払っても構いません。 さらに2倍のポイントを支払うことにより2段階上昇させることができます。 それ以上支払っても3段階上昇させることはできません。 例えば4人が参加したのならば合計で2ポイントを支払えば1段階、 倍の4ポイント支払えば2段階上昇させることができます。

ヒーローポイントを支払ったということは、 主にそのキャラクターにとって何か特別なことが発生したということです。 どのようなことが起こってどのような活躍をしたのか話し合ってください。


《続く》
今回はコンテストの結果と、 集団単純コンテストについて説明しました。 次回はより複雑な拡張コンテストについて説明する予定です

2014年6月26日

Guide to Glorantha 予約開始

Moon Design Publishing のオンラインスト http://www.glorantha.com/shop/ にて Guide to Glorantha の予約が開始されたようです。 7月7日までの期間限定というこなので、 欲しかったけれど kickstarter には参加しそこねたという人は早めに予約すると良いかと。 少し高価ですがグローランサ好きには堪えられない内容ですよ。

Charles Corrigan が Google+ の glorantha コミュニティで語ったところによると、2000部刷っていて、 そのうち1500部近くが kickstarter 分なので、  残り500部くらいあるとのことです。

2014年6月24日

HeroQuest紹介(7) - コンテスト

●HeroQuestのメカニズム
少し間が空きましたが、 今回から HeroQuest での判定方法などのメカニズムついて説明していきたいと思います。

HeroQuest はできるだけプレイヤーやナレーターのやりたい物語を邪魔しないようにするという思想の元にシステムが作られています。  このため判定システムは単純かつ抽象的に作られており、 事象を説明したりする仕組みはありません。 実際に何が起きたかその結果どうなったかを説明するのはプレイヤーとナレーターにまかされています。

同じく一部のゲームが持っているような物語を発生させたりする仕組みや、 システムに従っているだけで皆がある程度楽しめるような仕掛けも一切持っていません。 ナラティブRPGで楽しむべきはあくまで皆で物語を創るところであって、 ゲームシステムを楽しむのが目的ではないという考えによっています(ゲームシステムを楽しみたいのならば別のゲームを遊ぶことを検討してください)。

HeroQuest においてはゲームメカニズムはできるだけ無色透明になるよう設計されています。  HeroQuest は先鋭的というか純粋なナラティブ専用なので、 そのシステムの単純さに戸惑うかもしれませんが、 ナラティブRPGの考え方に馴れてくると余計なおせっかいシステムは必要ないどころか、 むしろ邪魔に感じるのも確かです。

もう一つ HeroQuest のメカニズムの大きな特徴はダイスの影響が非常に大きいということです。 例えばアビリティにマスタリー 1つ分(+20)の差があっても 25% 近くの確率で逆転が起きます。 マスタリー 2つ分(+40)の大差でも 5% 前後の逆転の可能性があります。 ゲーム的な RPG ならばダイス依存度が高いとプレイヤーの工夫が無駄になるので興醒めですし、 シミュレーションならばリアルな確率分布が求められます。 ナラティブRPGである HeroQuest においてダイスに求められるのはドラマです。 物語を面白くするためには現実以上に特別な事態や番狂わせが必要です。


●コンテストとは
HeroQuest において他のRPGでの技能判定や行為判定に相当するものをコンテスト(Contest:勝負)と呼びます。 多くのRPGではキャラクターや NPC たちの行った個々の行動、 例えば 「ゴブリンへの剣による攻撃が命中したかどうか」 の成功失敗を判定するために行為判定を行います。 HeroQuest ではもう少し粒度が大きく抽象的に PC がその目的を達成できたかどうか、 例えば 「ゴブリンの集団を迎撃して追い払うことができたかどうか」 を判定するためにコンテストを行います。

HeroQuest ではダイスを振るのは現実のシミュレーションを行うためではなく、 物語のシミューレーションを行うため、 そして物語にドラマを与えるためです。 そのため物語の中で勝敗に注目が集っている場面でのみダイスを振ります。 物語上重要でない場面(ドラマが必要ない場面)ではコンテストは行いません。

HeroQuest における判定には以下の種類があります。

    自動成功: ダイスを振らずに成功を決定します

    単純コンテスト: 普通の判定方法でダイスを1回づつ振って結果を判定します

    集団単純コンテスト: 複数のPCが協力して単純コンテンストを行います

    拡張コンテスト: 互いに複数回ダイスを振って時間をかけて解決を行う方法です

    集団拡張コンテスト: 同時に敵味方の多数が参加して行う拡張コンテストです

これらは主に物語的な重要度で使いわけます。 こんな風に考えてみてください。 小説の中だと 10行で片が付くような戦闘場面は自動成功で処理し、 10ページで行われるような戦闘ならば単純コンテストで解決し、 100ページ続くような重要な戦いならば拡張コンテストを使うといった感じです。

もう一度書きますがコンテストは行動判定ではないので、 全ての行為をコンテストで判定しようとしないでください。 コンテストはそれによって物語が分岐する(かもしれない)ような重要な場面でのみ使用してます。 具体的な運用のアドバイスとしては、 馴れるまでは各シーンごとに最も重要な問題についてだけでコンテストを行って、 それによって次のシーンへ進むものと考えてください。 その目標を達成する行為が複数のタスクに分割できるとしても通常シーンならば、 それらの中で一番難易度が高いもの、 もしくは一番面白くなりそうな事のみをコンテストの対象として残りは話し合いで解決します。

それでは、 それぞれのコンテストの詳細を順次説明していきたいと思います。


●自動成功
HeroQuest では多くの行動の成否は話合いの中で決めていきます。 物語上でたいして重要でない部分では判定は必要ありません。  例えば戦闘のような危険をともなう行為であっても物語上重要でないと感じるならば自動成功(Automatic Success)として処理します。 形式的に行うならば自動成功は以下の手順で解決します。
  1. プレイヤーはキャラクターがどのアビリティを使って何を達成しようとしているかを宣言します。
  2. ナレーターは自動成功を宣言します。 勝利レベルが問題になる場合には通常勝利 として扱います。
  3. そのキャラクターがヒーローポイントを 1ポイント支払えば結果を完全勝利扱いに変更できます。
  4. 何が起こり結果どうなったかを話し合って決めます。
自動成功を使えば  PC たちの強さや有能さを演出することができます。 PC たちにとっては深刻な問題ではないならば全て自動成功で処理してください。

さらに、 もう一つ自動成功の大切な使い方があります。 それは失敗した際の分岐先では物語が面白くなりそうにないと感じる場合です。 もし失敗するとその後の展開がつまらなくなると思った場合や、 失敗後の物語の展望が全くない場合には迷わず自動成功で処理してください。


●単純コンテスト

最も一般的な判定方法が単純コンテスト(Simple Contenst)です。  HeroQuest ではほとんどの戦闘場面も単純コンテストで処理します。 合戦のように多数の参加者がいる場合でも通常は代表者(リーダー)による単純コンテストで結着させます。 より複雑な拡張コンテストを使うのは敵首領との決戦のような物語上で重要な山場だけです。

単純コンテストは以下の手順で解決します。
  1. コンテストの枠組を決める
  2. 使用するアビリティに修正値を適用する
  3. ナレーターが抵抗値を決める
  4. プレイヤーとナレーターがそれぞれ d20 を振って成功/失敗を決める
  5. マスタリーやヒーローポイントによる繰り上げ/繰り下げをを適用する
  6. 双方の成功度を比較して勝利と敗北を決定する
  7. 継続効果を決め結果を描写する
以下、個々の手順についてもう少し詳しく説明します。


●1. コンテストの枠組を決める
コンテストを開始するにあったてプレイヤーとナレーターは以下のようなコンテストの枠組を明確にします。

    戦利品を定める(naming the prize): 抽象的に何を獲得しようとしているか目標を明確にします。 戦利品は実際の品物の獲得だけではなく権利の獲得や何らかの有利な状況をもたらすため、 敵の行動を妨害するためなど様々に決めることができます。

    戦術(Tactics): 定めた目標を獲得するためにどのような手段を取るのか考え、 それが適切なものになるようにナレーターと相談して決めます。 その際にどのキャラクターがどのアビリティを使用するかも一緒に決めます。

    敵対者または抵抗: その戦術において敵対者はいるのか、 いたとしてその敵対者の目的は何か、 または自然の障害はあるのか、 失敗したらどうなるかなどの状況をナレーターの視点から説明します。


●2. 修正値
使用するアビリティの数値に修正値(Modifiers)を適用して最終的な数値を決定します。 修正値には特化アビリティボーナス、 状況修正、 拡大解釈ペナルティ、 別のアビリティでによる増強、 プロット増強など様々なものがあります。


●3. 抵抗値
HeroQuest のコンテストでは必ずプレイヤーとナレーターの双方がダイスを振ります。 この時にナレーター側の目標値のことを抵抗値(Resistance)といいます。 一般に障害の主な要因が NPC やモンスターの場合にはそのアビリティを抵抗値とします。 自然の障害の場合にはその特性が抵抗値になります。

普通の RPG ならばシナリオであらかじめ敵の強さや崖の高さなどが決められていて、 これらが行為判定の目標値になりますが、 HeroQuest ではシナリオであらかじめ目標値を決めておくことはしません(そもそも決まったシナリオに従って進むことが少ないですし)。 抵抗値は物語上の要請に従ってその場で決めます。 ぶっちゃけて言えば成功した方が面白そうか、 失敗した方が面白そうかによって即興で目標値を決めます。 そしてなぜその目標値なのかは後付けで理由を考えます。 例えば簡単な崖登りの難易度を高くしたい場合には、たまたま凍りついていたり、 登っている途中に急に突風が吹いてきたりするわけです。


●4. ダイスを振る
それぞれ決めたアビリティと抵抗値を目標値にしてプレイヤーとナレーターは 20面ダイス(d20) を振ります。 そしてその出目で以下のように成功度を決定します。 この時点ではマスタリーは無視して数値の部分だけ判定してください。

    クリティカル:  ダイスの出目が 1 ならば目標値に関係なくクリティカルです
    成功:               ダイスの出目が 2 以上で目標値以下ならば成功です
    失敗:               ダイスの出目が目標値より大きく 19 以下ならば失敗です
    ファンブル:     ダイスの出目が 20 ならば目標値に関係なくファンブルです

後でダイス目が必要になることがありますので、 ダイスは取り除かず出た目のまま残しておいてください。


●5. 繰り上げ
成功度が決まったら以下の手順で、 成功度の繰り上げ(bump up)または繰り下げ(bump donw)を適用します。
  1. 双方がマスタリーを所有している場合は同じ数だけマスタリーを相殺します。 結果としてどちらもマスタリーがないか、 片方だけがマスタリーを持っている状態になります。
  2. マスタリーが残っている方は、 マスタリー 1つにつ 1段階成功度を繰り上げます。 ファンブルが失敗になり、 失敗が成功になり、 成功がクリティカルに上昇します。 クリティカルより上はありません。
  3. 自分の成功度をクリティカルまで上昇させてもまだマスタリーが残っているならば、 相手の成功度を繰り下げることができます。 残っているマスタリー 1つにつき 1段階相手の成功度を繰り下げます。 ファンブルより下はありません。
  4. ヒーローポイントを消費することにより、 1ポイントにつき自分の成功度を 1段階繰り上げることができます。 単純コンテストならば 1度に何ポイント使っても構いません。 自分の成功度を上げるためにしか使えず、 味方を成功度を上げたり相手の成功度を下げるためには使用することはできません。 この際に従者(followers)は自分の一部とみなします。
ヒーローポイントを使うと確実に成功度を高めることができ、 使うかどうかはダイスの結果を見てから決めることができる点に注目してください。 このため HeroQuest  のヒーローポイントは他のゲームに比べて強力に状況をコントロールすることができます。 ヒーローポイントを使うということは普通でない何か特別なことが起こっているということです。 どのような特別なことがあったかを考えて描写するようにしてください。


●6. 勝敗の決定
双方の成功度を比べて勝敗を決定します。成功度の 1段階の差があれば「通常勝利」と「通常敗北」になります。 成功度に2段階の差があれば「大勝利」と「大敗北」、 3段階差があれば「完全勝利」と「完全敗北」です。

成功度が同じならばダイス目を比べて出目が小さい方が「ぎりぎり勝利」に大きい方が「ぎりぎり敗北」になります。 ダイス目まで同じならば「引き分け」です。 ナレーターは両方がファンブルした場合は状況によって双方を「ぎりぎり敗北」と判定しても構いません。

まとめると以下の表のようになります。 この表ではPC側から見た勝敗を示しています。 相手側は反対の結果になります(PCが大勝利ならば相手は大敗北になります)。

PCの成功度相手の成功度

クリティカル成功失敗ファンブル
クリティカル *1 通常勝利 大勝利 完全勝利
成功 通常敗北 *1 通常勝利 大勝利
失敗 大敗北 通常敗北 *1 通常勝利
ファンブル 完全敗北 大敗北 通常敗北 *2

*1: 双方のダイス目を比べて小ければ「ぎりぎり勝利」、 大きければ「ぎりぎり敗北」、 同じならば「引き分け」
*2: 「 引き分け」(もしくは双方が「ぎりぎり敗北」)


《続く》
単純コンテストの説明の途中ですが今回はここまでとします。 残りの「7.継続効果の決定と結果の描写」は次回の頭で説明する予定です。

2014年6月15日

HeroQuest紹介(6) - キャラクター作成(続き)

●作成手順6. アビリティの選択
キャラクター作成の続きです。 今回は具体的なアビリティの選択方法の説明をします 。アビリティの決め方には以下の三種類の方法が記載されています。 どれも一長一短があるので自分たちの遊び方にあったものを使うようにとのことです。
  • 散文メソッド(Prose Method)
  • 一覧メソッド(List Method)
  • 即興メソッド(As-You-Go Method)
順次説明していきます。


●散文メソッド
散文メソッド(Prose Method)とは一段落の程度の短い文章を書いてその中からアビリティを決める方式です。 単純な列挙は避けて完全な文章にしなければなりません。 文章の長さは英語ではちょうど百単語を目指すと良いとされます。 日本語ならば四百文字原稿用1枚くらいを目安にすると良いかもしれません。

その短い文章でキャラクターの来歴や能力を詳しく説明する必要はありません。 そのキャラクターの立ち位置や最も特徴的な行動や動機のみを簡潔に記述するようにしてください。 ちょうど映画のパンフレットとか小説やコミックの登場人物紹介の部分を書いているつもりで書く内容を取捨選択すると良いでしょう。

文章が書けたらその中のフレーズのうちキーワードやアビリティや欠点として使えそうなもの全てにアンダーラインを引きます。 そしてその部分をその言葉のままキャラクターシートに書き写してアビリティにします。 このメソッドで取得するアビリティの数はいくつでも構いませんが、 単なる羅列の部分は最初の二つしかアビリティにできません。

散文メソッドには、 よりキャラクターのイメージを伝えることができアビリティの数も制限されないという利点がありますが、 文章力が必要で準備時間がかかるという欠点があります。 長期キャンペーン用のキャラクターを作るのに向いたやり方ではないかと思います。


●一覧メソッド
一覧メソッド(List Method)は以下の手順でアビリティを選びます。
  1. コンセプト等に即した専門職業をアビリティまたはキーワードとして取得する
  2. ナレーターが要求した場合は文化や宗教などのキーワードを無料で取得する
  3. 最大10個までアビリティを自由に選択する
  4. 望むならば3個まで欠点を選択する
一覧メソッドでは比較的時間をかけず簡単にアビリティを揃えることができ、 その数も公平になるという利点がありますが、 自由に選んでしまうとキャラクターとしての一貫性が取れなくなりやすいという欠点があります。 一番ベーシックな方法なのでどのメソッドを使うか迷った時はこの方法を使うのがお勧めです。


●即興メソッド
即興メソッド(As-You-Go Method)はアビリティを詳細に決めずにゲームを開始するやり方です。 既に決めたコンセプトや物語フックに関連するアビリティやキーワードがあれば、 それだけを最初に決めて残りはゲームをしながら決定していきます。

物語を進めていく中でアビリティが必要になった最初の機会に名前と数値を決めてキャラクターシートに記入します。 最初のアビリティを加えて11個目までは無料で取得できますが、 それ以降は通常どおり成長コストを支払う必要があります。

この方式は準備にほとんど時間をかけずにゲームを開始できて、 物語に最適なアビリティを取得できるという利点がありますが、 最初の頃はキャラクターが曖昧過ぎて物語に入り込みにくいとか、 アビリティが最初の物語に依存しがちとかの欠点が指摘されいます。 単発セッションなど時間がない時に使うのがおすすめです。


●ハイブリッドメソッド
これはルールブックに書かれている正式のやり方ではありませんが、 個人的に試行錯誤している中で自然発生的に見つけた方法で、 割と好評なので紹介したいと思います。 上記の三種類の混合を目指したやり方なのでハイブリッドメソッド(Hybrid Method)と名付けました。

1. 最初は各プレイヤーに順番に自分のキャラクターについて思うままに語ってもらいます。 散文メソッドの文章作成にあたりますが、 実際に文章を書かなくて済み文字数制限もないので気軽に実施できます(メモくらいは取った方が良いです)。 キャラクターはステレオタイプでも構いませんが一つだけでもそのキャラクターが他と違うユニークになる点を挙げるようにします。 この時に他のプレイヤーは単に聞いているだけでなくて質問したり提案したりしてキャラクターのイメージを固めるのを手伝ってあげてください。

2. 次に全員でキャラクターどうしの関連性を相談します。 どういう理由で一緒にいるのか、 いつからの付き合いなのか、 始めて出会った時は互いにどうのような行動をしたのか、 最近一緒にどのような冒険をしたのかなどなどを考えてみます。 単独で完成されたキャラクターを遊ぶよりも、 欠陥を補い合って全員で完成するような関係性が理想です。 PCどうしがが互いを必要とする理由を考えてみてください。

3. これまでの手順で固めたイメージを元に 「一覧メソッド」 と同じ手順でアビリティを選択します。 ただ一覧メソッドと違って最初に全てのアビリティを決める必要はなく、 いくつかのアビリティは決めず残して置くことが推奨されます。 だいたい4個前後を残しておくと良いでしょう。

4. あとは普通にゲームを開始して、 ゲームの途中で必要となった時に即興メソッドと同じ手順で残りのアビリティを決定します。 物語を通して隠れていた一面が見えて来るというわです。

いかがでしょうか? 最初に少しだけ手間はかかりますがイメージが固まるの早く物語に集中しやすくなります。 また三つの方法を混ぜることにより互いの欠点を補いあって全体的に良くなる感じです。 もし気にいったら使ってみて感想を聞かせてください。


●アビリティの数値の意味
次に選択したアビリティの数値を決めます。 その前にアビリティの数値の意味について簡単に説明します。

通常の RPG の技能値などはシミュレーショにおける客観的な成功確率を示していますが、HeroQuest のアビリティ値は物語中でそのアビリティでどれだけ活躍しそうかを示しています。

例えば 「ジャンプ 15」 を持つキャラクターと 「ジャンプ 20」 のキャラクターがいたとして 20 のキャラクターの方が必ずしも高く跳べるとか遠くへ跳べるという意味ではありません。 もう少し抽象的なもので 20 のキャラクターの方がよりジャンプを適切に使って困難の局面を乗り切り目標を達成できるということを意味しています。 どこでジャンプすべきか、 いつジャンプすべきかなどのジャンプの特性を良く知っているとか、 応用が効くととか、 このキャラクターがジャンプすると幸運なことが起こるなど様々な感じで解釈すると良いかもしれません。

もう一つ重要なの、 この数値は相対的なものであり絶対値による指標ではないという点です。 二つのアビリティを比べた時に、 その数値の違いはどちらのアビリティの方がより活躍しやすいかを示しているに過ぎません。 「ジャンプ」 の数値が非常に大きいからといって(魔法無しで)屋根に飛び上がったりできるわけではありません。


●作成手順7. アビリティの数値を決める
以下の手順に従ってアビリティの値を決定してください。

1. まず最初にどれでも好きなアビリティ一つに 17 を設定します。一番重要と思えるものを選択してください。 専門職業などのメインのアビリティやキーワードが選ばれることが多いようです。

2. 次に残りのアビリティとキーワード全てに 13 を設定します。

3. 最後に 20 ポイントを好きなように割り振ります。 1 ポイント割り振るごとにアビリティを 1 上昇させることができます。 キーワードも同じく 1 ポイントで 1 上昇させることができるのでキーワードに割り振ると少しお得です。 ただし同じアビリティやキーワードには最大でも 10 ポイントまでしか割り振ることができません。


●欠点の数値を決める
アビリティと同じよう欠点(flaw)も数値を持ちます。 一つ目の欠点の値はアビリティの最大値と同じ数値になります。 二つ目の欠点があれば二番目に値が大きなアビリティと同じ数値になります。 三つ目の欠点は値が最小のアビリティと同じになります。


●高レベルキャンペーン
最初からみんなで強いキャラクターを作って遊びたいということがあるかもしれません。 アビリティはあくまで相対的な値なので、 高レベルキャンペーンを遊びたい時でも特に大きな値を割り振る必要はありません。 PCを強くしたい場合には作成時の値はそのままで、 物語に登場してくる障害や相手役の抵抗値を相対的に小さくすることで表現します。

ただし特殊な背景設定では一部のアビリティの絶対値に特別な意味を持たせている場合があります。 このようなワールドで高レベルキャンペーンを遊びたい場合には初期値や割り振るポイントをブーストしてやる必要があります。


●マスタリー
作成時のポイントの配分や成長によって値が 21 以上になったアビリティはマスタリー(Mastery)になります。 21, 22, 23, ... と表記する代りに 1W, 2W, 3W と表記します。 この "W" の部分は実際には王冠をもしたグローランサのマスタリー(支配)のルーンで以下のような記号使用します。

マスタリーを持つアビリティが成長してさらに 20W を超えた場合には二つ目のマスタリーを獲得します。 表記は 1WW, 2WW, 3WW, ... ではなく、 1W2, 2W2, 3W2, ... のように W の後にマスタリーを持つ数を記述します。さらに成長すれ三つ目のマスタリーを獲得して ..., 20W2, 1W3, 2W3, 3W3, ... のように表記します。

マスタリーはアビリティの使用の際に大きな利点を与えてくれます。 詳しくは次回の判定の個所で説明する予定です。


●ヒーローポイント
キャラクター作成時にヒーローポイントを3点もらえます。 合わせてキャラクターシートに記入しておいてください。 ヒーローポイントの使用方法も同じく次回以降の判定方法と、 成長方法の場所て説明する予定です。


《続く》
今回でキャラクター作成は完了です。 次回は判定方法について紹介する予定です。

2014年6月12日

HeroQuest紹介(5) - アビリティ

●アビリティについて
キャラクター作成の次のステップはアビリティの選択です。 具体的なアビリティの選択方法を説明する前に、 まずアビリティとは何かについて説明したいと思います。

HeroQuest のキャラクターはアビリティ(ability:能力)の集合として表現されています。 一般的なRPG のキャラクターが 「能力値や技能値」 の集合で表されるのとよく似ています。 書式的にもアビリティの「名前」とそれに対応する「数値」からなっていて、 使用方法も一見すると似ているように見えるためアビリティを他のRPGの能力値や技能値と同じものだと思ってしまいがちです。 しかしながら根本の部分で大きな違いがあります。

一般的な RPG の能力値や技能値は「そのキャラクターが何ができるか」を示した値で、 シミュレーション的に客観的なキャラクターの性能を示しています。 HeroQuest ではシミュレーションは行わないためキャラクターの客観的な性能を示すデータは必要ありません。 そのキャラクターの出自やコンセプト的に可能なことは、 特に技能とかなくても可能と考えます。

一方で HeroQuest のアビリティは 「物語の中で問題解決や障害克服のために何をするか、 何故そうするのか」 を示したものです。 言うなればアビリティはキャラクターの主観的な性質を表しています。 普段から自らの剣の腕に頼るタイプのキャラクターならば 「剣術」 に関するアビリティを持っていますが、 「主君への忠誠」 を糧に問題に当たるキャラクターならばそのアビリティを、 困難に出会うと友人を頼るタイプのキャラクターならば友人に対する人間関係のアビリティを持っているといった具合です。


●アビリティの種類
HeroQuest のアビリティには事前に定められた一覧のようなものはありません。 キャラクターが問題解決や障害克服に使う可能性があるものならば何でもアビリティになりえます。 思いついたものは何でもアビリティにできるのでその種類は非常に多岐にわたります。 とりあえず以下はルールブックに載っている例そのままです。

肉体的性質:筋力、頑丈さ、鋭い視力
精神的性質:頭の回転が早い、記憶力、数学能力
性格:ユーモア、執念深い、決断力
肉体訓練:岩登り、フットボール、空手
知識分野:天文学、神学、写真技術
職業:武術師範、建築家、宇宙船操縦士
所有物:魔剣、巨大ロボ、防弾チョッキ
莫大な資産:信託、大農場、会社所有
文化背景:イヌイット、火星人、ルナーのホプライト兵
空想的パワー: 魔術、SF道具、ミュータント少女
非人間生態:ロボット、異星人、エルフ、トウロル
伝記的な事実: 無重力生まれ、アイビー・リーグの家柄、貧民街の習慣
縁故:部下、相棒、同盟者、知人、後援者

ほかにも行動原理とか動機とか口癖とか何でもアビリティになります。 実際ルールブックに載っているサンプルのキャラクターには 「触った物は何でもぶっ壊す」 とか 「馬鹿なやつが馬鹿なことをするのを止める」 というアビリティを持っているキャラクターもいます。

上記のアビリティの分類はあくまで参考のためでルール上で分類に意味があるわけではありません。 複数の分野にまたがるアビリティも一般的です。 例えば「元刑事」というアビリティならば実際の調査行為以外にも、 犯罪法規関連の知識としてや、 昔の警察仲間へコネなどとしても使えるでしょう。

当然ならが背景世界や前提条件に合わないアビリティは取れないので特殊なものはナレーターと相談する必要があります。 特に魔術のような空想的パワーや非人間とかの固有設定は世界ごとの追加ルールがある場合があります。 その他に縁故や人間関係に関しても専用のルールがあるのでルール上どのタイプになるかはナレーターに相談してください。


●良いアビリティとは
何でもアビリティになると言われると、 逆にアビリティを選ぶのが難しくなるものです。 ここで良いアビリティとは何かについて考えてみたいと思います。 究極的には面白い物語になり、 一緒に遊んでいる参加者が喜んでくれそうなものが良いアビリティです。

まずアビリティはキャラクターの描写の一部だと考えてそこから始めてください。 その意味でできるだけ多彩で想像力を刺激しキャラクターのイメージを伝えるものが良いアビリティです。 例えば単なる 「剣士」 よりも 「二刀流の剣士」 の方が良い描写ですし、 さらには「新月流の二刀剣士」とした方が戦い方や因縁などの物語を感じさせて良い感じになります。

直接的な能力そのものでなく、 それに関するセリフや道具をアビリティに選ぶ方法もあります。 「剣士」 というアビリティの代りに 「我は剣に生き剣に死す」 のようなセリフとか、 「父の形見の古ぼけた剣」 のようなアイテムとかを選ぶことにより、 全然違う物語を感じさせることできます。

ゲーム上はどれでも同じように働くかもしれませんが、 できるだけ良い物語を生み出すアビリティを考えてみててください。 どうしても難しいと思ったら最初は「剣士」とだけしておいて物語が進んで、どのような剣士か特徴や性格が判ってから、 アビリティの名前を変更することもできます。


●悪いアビリティとは
逆に程度を表す形容詞や副詞、 例えば 「凄い」 「腕の立つ」 「一番の」 などがついたアビリティは良くないものとされいます。 アビリティの活躍度合は、 そのアビリティつけられた数値によって決まります。 アビリティの名前を変えたからといってキャラクターが強くなったりはしません。 そのためアビリティの名前が単なる 「剣士」 でも 「負け知らずの剣士」 でも同じだけしか活躍できません。 それどころかアビリティの数値が低いと 「負け知らずの剣士」 なのに負けてばかいるということも起こりえます。

アビリティは 「客観的な性能」 ではなく 「主観的な性質」 なので 「負け知らずの戦士」 というのは要は自分が 「負け知らず」 と思い込んで問題に立ち向うといった感じになります。 自称 「負け知らずの剣士」 が負けても何の問題はないわけですが少しコミカルな感じになります。 そういう一風変ったキャラクターを遊ぶつもりでなければ、 程度を記述するのは避けるべきでしょう。


●広汎なアビリティと特化したアビリティ
もう一つ問題になりそうなのが 「広汎な」 アビリティと 「特化した」 アビリティです。 例えば単純で広汎な 「走る」 というアビリティと 「森の中を疾走する」 のような特化したものどちらが良いアビリティなのでしょうか?  一見すると適用範囲が広くどこでも使えそうな 「走る」 の方が有効なアビリティのように見えます。 でも HeroQuest では逆になります。

広汎とか特化とかはあくまで相対的なものです。 例えば 「森の中を疾走する」 とい名前のアビリティでも応用して平地や荒地でも普通に走ることができます。 「大木の根が張り出した森の中を駆け回っていた私にとってこの程度の荒地など問題にならない」 というわけです。 判定のところで再度説明すると思いますがアビリティは名前そのままだけでなく相当に応用が効くものと思ってもらって構いません。

さらには特化したアビリティであれば、 それにピッタリ一致する特別な状況においては 「特化アビリティー・ボーナス(Specific Ability Bonus)」 と呼ばれるボーナスをもらえます。 もちろんその逆で意図的にその特化がピンポイントで困難をもたらすこともありますが、 それも良い物語の種です。 広汎なアビリティは単純ではありますがボーナスをもらえる状況もありません。

このように特化したアビリティを取っても直接問題になることはない仕組みになっています。 できるだけ多彩なアビリティを選択するようにしてください。


●欠点
欠点(Flaw)は特殊なアビリティーで、 PCが不利になる方向にのみ使用できるものです。 通常はその値の1/5 が他のアビリティへのペナルティとして適用されます。 HeroQuest ではキャラクター作成の際に通常のアビリティに加えて最大3つまで欠点を無料で取得できます。

通常のRPGならば欠点を取ると見返りに何か有利な特性をもらえたりしますが、 HeroQuest では欠点を取ったからといって何かもらえるわけではありません。 なので欲しくなければ別に取らくても構わないのですが、 ナラティブとしては主人公に欠点を持たせることにより、 より人間臭い魅力的な人物にしたり、 主人公が失敗する理由を説明したりなどの良い面がたくさんあるので、 面白い欠点を思いついたら是非取得を考慮してみてください。

欠点も 「主観的な」 ものであることには注意してください。 周囲が困るものではなく自分が困るものが欠点です。 そのため不利にも有利にも両方に使えるものは欠点ではなく通常のアビリティ扱いなります。 例えば 「臆病」 といのは通常は欠点ですが、 臆病であることを理由にやりたくない仕事を断ったり、 他の登場人物に何かをさせるなど状況をコントロールした場合にはルール上の欠点として認められません。 ヒーローポイントを代価として支払って通常のアビリティ扱いに変更してください。


●キーワード
キーワード(keyword) とはアビリティのセット販売ようなものです。 「忍び足」 「錠開け」 「聞き耳」 「地下ギルド」のような個々のアビリティを取得する代りに 「盗賊」 というキーワードを一つ取ることにより代用するという手法です。

どのようなキーワードが使えるかとか、 キーワードを何個まで取得可能かは背景世界の設定やナレーターの準備状況によって異なりますのでナレーターに相談してください。 「職業」 「種族」 「出身文化」 「魔術/超能力」 などやその組み合わせがしばしばキーワードとして準備されます。 キーワードを取るだけで背景設定にあったキャラクターが作成できるお買い得セットというわけです。 キーワードにはアビリティーだけでなく欠点(Flaw)が含まれている場合もあります。

例えばグローランサならば 「ウーロクシの戦近侍(いくさきんじ)」 というキーワードを取るだけで、 そのキャラクターの立ち位置、 能力、 性格、 行動目的、 欠点などを一気に揃えられるだけでなく、 自動的に背景世界にマッチしたものになるというわです。


●キーワードの運用
キーワードの運用方法には以下のような三種類からの選択になっています。

自由キーワード: キーワードの名前と数値だけ決めて、 その中身のアビリティは決めずに関連しそうなもの全てにキーワードの値が使えるものとして遊びます。 成長させる場合にはキーワードの値を成長させます。 内部のアビリティは成長させられないので例えば 「錠開けの得意な盗賊」 のようなカスタマイズはできない欠点があります。

パッケージ型キーワード: 自由型とは逆にキーワードに含まれるアビリティを事前に全て決めておきます。 最初の作成の時にのみキーワードで取得し、 成長させる場合にはキーワードではなく個別のアビリティとして成長させます。 事前に詳細を決めておく必要があるので手間がかかるという欠点があります。

アンブレラ型キーワード: 上記二つの中間型で自由キーワードのようにキーワードごと成長させることができますが、 その中のアビリティを指定してパッケージ型のように個別成長も可能な方式です。 キャラクターシートに記述する場合はキーワードに数値を持たせておいて、 その中のアビリティを個別に成長させた場合には +1, +2 といったキーワードへの修正値で記録しておき、 それを使う場合にキーワードの値に足し算します。 アビリティが足し算表記になるので少し判り難いという欠点があります。

どの方式を使うかはナレーター次第ですが、 世界設定によってはアビリティ間の関連が強い魔術キーワードは一緒に成長させられるアンブレラ型、 関係が弱い出身文化キーワードは個別成長が必要なパッケージ型というように複数同時に使うこともできます。


《続く》
以上、 今回はアビリティとキーワードの説明でした。 次回はキャラクター作成のメインであるアビリティの取得方法と数値の決め方を説明します。

2014年6月10日

HeroQuest紹介(4) - キャラクター作成

●ルールではない?
第4回です。 さっそく HeroQuest Core Rule の紹介に入りたいと思います。 と言いながらどうかと思いますが最初に一番大事な点として、 これはルールではないという話をします。 HeroQuest Core Rule はルールではありません。

普通のゲームならばルール(規則)を無視するとゲームとしての公平性が失われます。 もしシミュレーションならばシステムを無視して気ままな介入をしていては、 せっかくの実験が台無しになってしまいます。 しかし、 この HeroQuest はナラティブを目的としているので本質的な意味で規則は必要ないのです。  HeroQuest Core Rule では名前に反して 「これはルール(規則)ではなくツールキット(工具箱)」 であると本の最初に書いてあります。

あくまで工具なので必要な時に必要なものだけ取り出して使えば良く、 目的に合わなければ使う必要がないわです。 ご都合主義で勝手に変更してしまっても、 新しいツールを勝手に創り出してもかまわないということです。


●準備するもの
基本的に他の TRPG と準備するものは変りません。 ルールブック以外には筆記具とメモ用紙を準備し、 キャラクターシートをプレイヤーの人数分印刷(またはコピー)しておいてください。 その他にもちろんダイスが必要です。 ダイスは一人につき20面ダイスが1個づつあれば十分です。 他の種類のダイスは使いません。

あとは必須ではないですがポーカーチップのようなカウンターとして使えるものがあると便利です。 敵と味方用に二色(赤と緑とか)のチップがそれなりの枚数あると状況が一目でわかって楽です。 なければメモ用紙か何かに書きとめるだけなので、 ないならないで困ることはないのですが、

他の RPG と違ってミニチュア・フィギュアとかその辺はゲーム上は特に必要ありません。 フレイバー/飾りとして準備しておけば盛り上がるかもしれません。 情報共有用にホワイトボードとかも勧めです。


●ナレーター
HeroQuest ではゲームマスター(GM)のことをナレーター(narrator)と呼びます。 通常の RPG ならばゲームマスターは審判として絶対的な権限を持っていますが HeroQuest においてはナレーターは議論がもめた時や結論が出ない時に裁定を行う司会者もしくは議長のような立ち場になります。基本話し合いで決めていき、 各PCの行動はその担当のプレイヤーが、 それ以外の全てはナレーターが最終決定権を持つことになります。

普通のRPGのゲームマスターには審判役以外にも、 世界や設定を準備し、 敵や物語を準備して参加者に提供し、 ゲームバランスを取るなどホスト役として多くのことが求められていましたが、HeroQuest では物語を考えたり、 世界を詳細化したり、 バランスを取ったりする作業はプレイヤー側にも移譲されておりナレーター単独の仕事ではなくなっています。 ナレーターの仕事はゲーム(物語の進行)が破綻したり停滞したりしないようにする調整役に近いものです。

●キャラクター作成のコツ
具体的なキャラクター作成に入る前に、 ナラティブRPGのキャラクター作成のコツについて伝えたいと思います(といっても私もまだまだなので、 あまり鵜呑みにせずに色々試してみてください)。

普通のRPGでのキャラクター作成の際にはいかに強いキャラクターを作るかとか、 制限の中で色々なことができる効率的なキャラクターにするかとか、 キャラクターの来歴を詳細に決めるかといった点を重視しているかと思います。

ナラティブRPGでキャラクターを作成する際には重視するべきは主人公を創るという点で す。 当たり前の話だと思うかもしれませんが知らず知らずに脇役を作ってしまう人が少なからずいるようです。 脇役はNPCでいくらでも補えますので脇役を創らないでください。

主人公に最も必要なのは強いことではなく読者/視聴者の共感を得ることです。 完璧なキ ャラクターでは駄目で人間味がなければなりません。 かといって無能も問題で時々は活躍してその不可欠性を示さなければなりません。 物語を進めるためには冷めた人物より情熱や信念を持った人物が好ましいです。 皮肉だったり無関心だったりといったキャラクターは創らないでくさい。 そういうのは脇役の属性です。 皮肉ぶってるだけとか無関心なふりをしている程度なら問題ありませんが、 主人公の役目は人々の輪の中に入って視聴者と一緒に怒ったり喜んだりすることだと心得ておいてください。

ゲーム効率や詳細設定には気を配る必要はありませんと説明すると、 ゲーム的な RPG に馴れた人の中には作成の手掛りが無くなって困ってしまう人がいます。 そのような場合には、あまり難しく考えずに映画の脚本家になったつもりで映画の主人公の簡易設定を作るような感じで進めてみてください。 物語が進行してから明かされるような詳細設定は必要なく、 最初から小説やコミックの登場人物紹介や映画のパンフレットに書いてあるような初期設定だけを作る感じです。 色々な方面で活躍し過ぎないように注意するくらいで丁度良いです。

他の参加者からそのキャラクターの活躍場面がイメージできるとか、 その冒険を見てみたいと思わせるのが最高のキャラクターです。 馴れないと難しい部分もあるかもしれませんが、 義務ではなく遊びですのでその試行錯誤を楽しんでください。 キャラクター作成もゲームの一部ですので楽しむことが最も重要です。


●キャラクター作成手順
それではキャラクター作成に入りましょう。 具体的なキャラクター作成手順はだいたい以下のよう流れになっています。
  1. 物語のパラメータを学ぶ
  2. キャラクターのコンセプトを決める
  3. 名前をつける
  4. 外見を説明する
  5. 物語フックを加える
  6. アビリティを選択する
  7. アビリティに数値を配分する
以下順次説明していきます。


●作成手順1. 物語のパラメータを学ぶ
キャラクターを作成する前に物語のパラメータ(Parameter:要素)がナレーターから伝えられます。パラメーターには以下のようなものがあります。

ジャンル(Genre:分野): 今から遊ぶ物語のジャンルを宣言します。 SFなのか、 ファンタジーなのか、 ホラーなのか、 歴史物なのか、 現代スパイ物なのかなどの物語の種類です。 場合によって18世紀のロンドンでSFを遊ぶとか、 未来のサイバーパンク社会でゾンビホラーを遊ぶなどの混合ジャンルのこともあるかもしれません。

セッティング(Setting:背景): 物語の舞台なとなる場所を説明します。 現代の都市なのか、 未来の別惑星なのか、 国や地域はどこかなど、 オリジナルのファンタジー世界などプレイヤーに馴染みのない場所の場合には少し詳しい説明が行われるでしょう。

モード(Mode:話法): 話の種類を決めます。 英雄物語なのか、 パロディなのか、 年代記なのか、悪漢物なのか、 サバイバルなのか、 コメディなのか、 などなどです。 馴れてきたら複数のモードの組み合わせや、 話の途中でモードが変化していくなどの変則的な遊び方もできます。

プレミス(Premise:前提): PCたちに共通の条件や目標を指定します。 特定の部族出身のキャラクターで遊ぶだとか、 特定の組織に復讐しようとしているキャラクターだとか、 オーガは禁止だとかを指定します。 これがPC作成の前提条件になります。 最初から詳細に決まっているというより実際はナレーターとプレイヤーで話し合って細かい前提を調整します。


●作成手順2. コンセプト
どんな物語を展開するかわかった所で、 プレイヤーキャラクターを作成します。 まずは今回作成しようとするキャラクターのコンセプト(Concept:着想)を決めてください。 ここで言うコンセプトというのはそのキャラクターを短い2, 3単語のフレーズで表したものと思ってください。

といっても難しく考える必要はありません。 他の RPG ならば種族と職業を決めたり、 テンプレートから選んだりする作業に似ています。 馴れなていない最初は 「性格を示す形容詞+専門分野」 として作成することが推奨されています。 例えば 「寡黙な暗殺者」 とか 「怠惰な元傭兵」 のようなステレオタイプでも良いですし、 「高貴な盗賊」 とか 「好色な老執事」 などチョット変った面白そうなものを考てみるのも良いでしょう。


●作成手順3. 名前
名前は大事です。 この時点で名前を決めてください。 その舞台での適切な名前が良くわからない場合にはナレーターや他のプレイヤーに相談しましょう。 名前を決める際には物語の舞台だけでなく、 そのキャラクターのコンセプトや物語のモード(話法)に対して適切なものになるよう努力してください。 本名ではなくてあだ名やコードネームなどでも構いません。


●作成手順4. 外見
キャラクターの外見を決めてください。 といっても詳細に決定する必要はなくて、 他の人とは違う最も目立つ特徴を幾つか挙げれば十分でしょう。 映画やドラマの主人公たちは視聴者の目を引くために際だった特徴を持っているものです。 人混みでそのキャラクターを探す時に何を手掛りに探すのかとかを考えてみてください。

もちろん絵心があるならばキャラクターのイラストを書いても良いですし、 ネットや雑誌から挿絵や写真を探してキャラクターの説明に使うこともできます。


●作成手順5. 物語フック
次に物語フック(Narrative Hooks)を決めます。 RPG のキャラクターたちばトラブルや危険な冒険に身を投じますが、 普通の物語の主役たちの多くは危険を遠ざけようとし、 自ら進んでトラブルに近寄ることはありません。 しかし主人公たちは望むと望まないとにかかわらず危険を冒さざるを得ない事情を抱えているのものです。

このような事情を物語フックと言います。 そのキャラクターは通常の方法では達成することが困難な大きな望みを持っているのかもしれませんし、 自分の生活や大事な人を守るために戦わなくてはならない事情があるのかもしれません。 個人としてではなくそのキャラクターの所属する組織/集団が既に危険に巻き込まれているかもしれません。 他人の問題を見過ごせない勇敢なキャラクターなのかもしれません。

そのキャラクターの持っている問題を考えて、 ナレーターと相談してより舞台や設定に合った物語フックとなるよう修正してください。 それがキャラクターが危険に立ち向う動機にもなります。


《続く》
キャラクター作成の途中ですが、 次のアビリティの説明は少し長くなりそうなので、 一旦ここで切りたいと思います。

2014年6月9日

Rune Quest Essentials

the Design Mechanism から RuneQuest 6th の簡易版として RuneQuest Essentials  というのが無料配布されました。 簡易版といいながら200ページあり挿絵とかもついてます、 製品版は450ページなので半分弱ですね。 無料版を読んで気にいったら寄付ボタンで寄付するなり、 正式版を購入して欲しということなのでしょうが太っ腹ですね。

近いうちに入門向けシナリオとして Sariniya's Curse というのも予定されているみたいです。

the Design Mechanism の Download ページ:
    http://www.thedesignmechanism.com/downloads.php

2014年6月8日

HeroQuest紹介(3) - ナラティブRPGの遊び方

●ナラティブRPGの遊び方
いきなり 「物語を語り共有するのがナラティブRPGです」 と言われても、 どうやって遊ぶものかピンと来ない人も多いのではないかと思います。 HeroQuest  の具体的なルールを説明する前に、 まずはナラティブ RPG の遊び方について説明したいと思います。

と言っても特に難しいことはありません。 普通に RPG を遊んだことがある人ならば多かれ少なかれナラティブな遊び方について経験があるはずなのです。 ただ本人たちが気付いていないことが多いだけで。 ナラティブRPGも普通のRPGと同じく次々と展開していく状況でキャラクターの行動を指定して成功か失敗か判定して、 次のシーンへ行くという遊び方は流れは全く同じです。 違うのはその時の判断基準です。

ゲーム指向の RPG ならばプレイヤーはのどの手段を選んだら有利かどうやったらシナリオクリアの近道かを判断基準にアクションを選択します。 シミュレーション指向ならばキャラクターの考え方や背景世界の常識などに基いて現実的(リアル)な行為を選択します。 その他にもプレイヤーがやってみたかった行為をPCにやらせるなどの遊び方もあると思います。 ナラティブRPGはこの判断の時にどうやったら面白い物語になるか、 視聴者に喜んでもらえるかを判断基準に行動を選択します。

普通のRPGを遊んでいても面白くなりそうなアクションを選ぶというのは普段からやっていたのではないかと思いますが、 ただそれがルール上効率的なアクションやリアルなアクションと対立する時にはそちらを優先して、 面白くなりそうでも敢えて選択しないということはありませんでしたか?  そういう時に面白い物語になる方を優先するのがナラティブRPGの遊び方です。


●ナラティブRPGって楽しいの?
意識して遊んだことがない人にとって単に面白い物語になるように行動しろと言われても、 よく考えると難しいですよね。 誰にとって面白い物語なのかとか?  どうやったら物語が面白くなるのかとか? そんなことをしていてゲームが破綻しないか? そもそもナラティブRPGは遊んで楽しのか、 とかいろいろな疑問が湧くと思います。 今回はこのような疑問に順番に答えていってみたいと思います。

まずはナラティブRPGって楽しいのかという根本の疑問ですが、 基本的には楽しいと思って間違いありません。 人によってその楽しさの程度は異なるので、 ゲームの腕を競いたいとかシミューレションを楽しみたいと考えていた人たちにとってはがっかりする部分があるかもしれません(そういう時は別のゲームを検討するのが適切です)。 映画を見たり小説を読んだ時にこの展開は認められないとか、 こうしたらもっと面白くなるのにと思ったことがある人(ほとんどの人がそうだと思います)、 そういう小説、 映画、 コミックなどのストーリーを楽しめる人ならナラティブRPGを楽しめるはずです。

例えば、 こんな話があります。 何十年もRPGを遊んでいるようなベテランのRPGゲーマーに面白かった記憶に残るRPGセッションやキャンペーンの話を聞くと、 回答はの多くがいかに面白い物語だったか、 どのような劇的なエピソードが起こったかといった話ばかりで、 戦いの細かい進行とかゲーム的に有利な手順とかシステムがリアルだったかなどはほとんど出て来ません。 これはRPGの最大の楽しみが物語を創る点にあるということを示しているのではないかという主張です。 それならば余計な部分に時間や手間を使わずに、 そこに集中した RPG があっても良いのではなか。 これがナラティブRPGの試みになります。

遊びには余計な部分があるのが楽しいと個人的に思うので、 ナラティブが全てとは思いませんが、 ナラティブの面白さは多くの人が認める所のようです。


●そもそも面白い物語とは何か?
じゃあ目指すべき面白い物語って何かという疑問になるのですが、 これは究極の疑問ですね。 これに簡単に答えられるようならば小説家や脚本家にでもなって印税でがっぽがっぽ儲けることができるはずなので。

究極の問題ですが、 ナラティブRPGは個人作業ではなく、 参加者みんなで物語を創ることに特徴があります。 一人で悩む必要はありません。 みんなで脚本家になったつもりで、 どっちが面白そうかとか相談しながら進めれば良いのです。 そのようにして共有された物語は個人で作った物語を超えます。 どんな物語でも共有され共通認識になることによって楽しさが増すことが知られています。 面白い小説を読んだ時、 良い映画を見た時、 みんなとそれについて語り合いたい、 みんなに伝えたいと思ったことは有りませんか?  そういうのがナラティブの楽しみです。


●面白い物語を創るのって難しいのでは?
みんなで面白い物語を目指せば良いとは言っても、 どうやったら面白くなるかという技術面は初心者には難しい問題かもしれません。 こういう技術面では物語論とか脚本術として色々な研究がされていて解説本とかハウツー本とか出ているので参考になるかもしれません。

とは言ってもナラティブ RPG を遊ぶだけならば、そこまで難しく考える必要はないと思います。 物語のコツとかは小説や映画やコミックを通して 「お約束」 的に経験しているはずです。 曰く 「主人公は解決すべき問題をかかえていなければならない」 「主人公には敵/ライバルと支援者がいなければならない」 「主人公は失敗と成功を繰り返さなかればならない」 などなどいくらでも思いつくはずです。 そういった物語的お約束を守ることが面白い物語をつくる第一歩です。

最近はゲーム以外の方面でも何かとナラティブははやりのようで、 揺り籠から墓場までではありませんが、 それこそ子供の教育から老人のセラピーまでナラティブの活用が主張されています。 物語があるだけで理解が深まり、 共感を呼び、 記憶に残るということのようです。 物語があるだけで効果があるということならば、 最初は「面白い」という部分にはあまり拘らずに、 とにかく物語を創ることだけを目指してみると良いかもしれません。


●誰にとって面白い物語なのか?
物語の感じ方は人それぞれであり、 どのような物語を面白いと思うかは人によって違うのではないか?  鋭い指摘です。 シニカルでビターな話を好む人もいれば、 べたべたのハッピーエンド主義者もいます。 ファンタジー愛好者もいれば、 ハードSF好き、 歴史小説の愛好者などジャンルも様々です。 実際に人によって違うからこそ、 これだけ多くの種類の小説や映画やコミックなどが市場にあふれているわけです。

ナラティブ RPG を遊ぶ時にももちろんその辺を考慮する必要がありますが、 これも小説家や脚本家に比較するととても簡単です。 各プレイヤーが楽しませるべきは抽象的な視聴者などではなく、 目の前にいる他のプレイヤーやゲームマスターなのですから。 面白がってくれてるかどうか見て確認できますし、 わからなかればどっちが面白いか直接聞くことができます。

さらには、 いつも一緒にプレイするよく知った間柄ならば、 誰が何を好きかはあらかじめ判断できるかもしれません。 それならばその人たちに合わせたカスタマイズされた物語を進めることができます。 きっと満足してもらえることでしょう。

あまり良く知らない人とプレイする場合は少し難しくなります。 そのような場合にはハリウッド映画とか人気ドラマとかが参考になります。 そのような作品はできるだけ多くの人の最大公約数を満足させようと製作されていますので、 悩んだ時にはハリウッド映画のような展開を目指せば、 全員ではなくてもかなりの人が面白がってくれるでしょう。


●面白さばかり追求したら破綻するのでは?
面白さを追求して非効率な選択をしていたら敵に負けたり、 シナリオをクリアできなかったり、 経験値をもらえなかったり色々と困ったことになりませんか? 普通の RPG を遊び馴れた人からよく出る疑問です。 ナラティブRPGではこういう心配はありません。 なぜならナラティブRPGは勝たなくても良い、 シナリオをクリアしなくても良い、 成長しなくても良いからです。

考えてもみてください物語の中では主人公が勝ちっぱなしということはなく、 勝ったり負けたりしているはずです。実際ハリウッドの脚本術でも一本の映画の中で主人公は3回失敗しなければならないとされています。 物語的にも主人公が当初の目的に沿って目的を遂げるのではなく、 始めの目的は間違っていたことを知り途中で目的が変わるのはよくあることではありませんか。 そんな感じでナラティブRPGは戦いの勝ち負けやシナリオのクリアを目的としません。 ゲームとしての勝ち負けををいうのならば「面白い物語ができたら勝ち」という遊びです。

さらにゲームシステムがこの仕組みを裏付けています。 普通の RPG ならば現実をシミュレーションしておりその時の状況によって行為の難易度が決まりますが、 ナラティブRPGの場合には物語をシミュレーションしており物語的要請によって行為の難易度が決まります。 言いかえると物語上で成功しそうなことは状況にかかわらず判定難易度が低くなります。 物語の流れ上、 主人公の失敗が予想される時には(理由は後付けで)難易度が高くなります。


●そんなやり方だと飽きるのでは?
良い物語を作るためには物語のお約束を守った展開が良いと書きましたが、 それだと同じような展開ばかりになって飽きてしまうのではないかという疑問があります。

ちょっと聞くとナラティブは予定調和に落ち入ってしまって飽きてしまいそうですよね。 でも実際には細部が異なれば相当印象が違いますし、 複数のプレイヤーが参加する RPG では相互作用が思いもよらない展開をもたらすためそう簡単には予定調和や一本調子になったりしないのですが、 その心配はごもっともです。

その予定調和を壊すにはドラマ要素が必要です。 前回に感情を揺さ振り共有するのがドラマの楽しみだと書きましたが、 予定調和では人間の感情はなかなか動きません。 予想できない驚くべき悲しみや喜びが感情を揺さ振るのです。

もうだいたい見当がついていると思いますが、 サイコロの出番です。 普通のRPGでは確率事象をシミュレーションするためにサイコロを使いますが、 ナラティブRPGでは予定調和を壊すためにサイコロを使います。 そしてそれにより予測不能のドラマを演出するのです。 逆にいうとドラマが必要ないところではサイコロを振る必要はありません。


●物語ゲームとして
まだわかり難いですか。 それならばこんな例はどうでしょう。 通常のTRPGのコンピュータ版としてコンピュータRPGがありますよね。 ナラティブRPGによく似ているコンピュータゲームとしては物語系のアドベンチャーゲーム(サウンドノベルとかビジュアルノベルとか)が対応すると考えてみてください。 基本的に物語を進めることが目的で、 要所要所で選択肢があってプレイヤーの選択によって物語が変化していきます。 往年のゲームファンならばゲームブックを思い浮かべると良いかもしれません。 まず最初は物語系アドベンチャーゲームやゲームブックのように遊ぶ物語ゲームだと思ってナラティブRPGを始めるのが近道かもしれません。

だだし、 これらのゲームとナラティブRPGに重要な違いが二つだけあります。 一つ目はゲームブックもアドベンチャーゲームも作者が準備した選択肢の中からしか選べないに対して、 ナラティブRPGのプレイヤーは作者でもあり選択肢の中から選ぶのではなく自分で選択肢とその結果を作ることができる(作らなければならない)という点です。 もう一つは参加者が複数いてみんなで協力しながら遊ぶところです。


●セッションの前に
いかがでしょうか? ナラティブRPGとはどんなものか何となく理解いただけたでしょうか? 前置きが長くなってしまいましたが、 個人的な経験上、 始めて HeroQuest 遊ぶ人がいる時には、 ナラティブRPGとは何かを事前に時間とって説明しておかないと、 通常のRPGの常識にとらわれてセッションがうまく行かないことがあるので、 このような構成にしてみました。 みなさんも HeroQuest を遊ぶ場合には事前にナラティブRPGについて認識を合わせておくことをお勧めします。


《続く》
今回はナラティブRPGを遊ぶ上での疑問に事前に答えてみるという主旨で色々と書いてみたのですが、 まだまだ、 うまく自分の言葉に出来ていない気がします。 次回からは HeroQuest Core Rule の具体的な内容を紹介したいと思います。

2014年6月7日

HeroQuest紹介(2) - RPG システム論

●ナラティブRPGって何もの?
早速 HeroQuest のルールの中身の紹介に入りますと言いたいとことなのですが、 そうも行かないのが難しいところです。HeroQuest ナラティブRPGと呼ばれる比較的新しい種類の RPG に分類されるのですが、 このタイプは少なくとも日本ではあまり知ら れていないようです。 よく知られた一般的なRPGの常識で読まれてしまうと判らなくなってしまうので、 今回はナラティブRPGとは何かについて説明をしたいと思います。

ナラティブRPG? よく知ってるよ!  とか、 普段からナラティブRPGを遊んでるよという人は今さらなので、 今回(と多分次回も)の記事は軽く読み飛ばしてください、 もしくはまだまだ理解の足りていない私に色々教えてください。 全く知らないという人や聞いたことあるけど、 よく理解できていないという人向けに、 まずは「ナラティブ」について説明したいと思います。


●RPGシステム論
全く知らない人に「ナラティブ」について説明するは結構難しいです。 概念的な話だし色々と枝葉が広がっているので悩んだのですが、 結局遠回りのようですがRPGの歴史を遡っ て「RPGのシステム論」から入るのがRPGのナラティブについて説明するには良いのではないかと思い至りました。HeroQuest の解説としては脱線な感じになりますがお付き合いください。

むかし、 むかし(と言っても1990年代の終り頃のことですが)、 とある所で(と言っても インターネット上のネットニュースや掲示板などですが)、 いつものようにいつものごとく RPG のシステム論が繰り広げられていました。

曰く「このゲームシステム は他に比べて優れている」、 「目指すべきRPGのゲームデザインとはどのようなものか」 、 「究極のRPGとはどのようなものか」、 「俺の遊んでるやつで十分。 新しいRPGを作る必要などない」などなど。

ご想像の通り、 このような議論に正解が出るわけもなく議論はいつまでも続くのでした。
そのような流れの中で、 何故この議論に結論が出ないのか論理的に考えようとする人たちから仮説が提案されようになりました。


●三面モデル(Threefold Model)とは?
議論の中で Threefold Model  (三面モデル)というものが提唱されました。 その理論では RPG に究極のシステムがない理由を簡単に書くと以下のように説明しています。

RPGを遊ぶ人は以下の三種類に分類される。
  • ゲーミスト(Gamist):  公平な条件の元でプレイヤーどうしで、 いかにうまくやるかを競い合うゲームとして価値を見い出すスタイル 

  • シミュレーショニスト(Simulationist):  背景設定に基いて人物や事件を配置してルールに従って動かし、 それが正しくリアルに推移していくことに価値を見い出すスタイル 

  • ドラマティスト(Dramatist):  個人的に満足いく物語(ストーリー)が創り出されることに価値を見い出すスタイル
各々のゲーマーがこの三種類のどれかに完全に分類されるといわけではなく、 それぞれの成分の混合になっていて、 その割合は人によって異っている。 これらの目標は互いに対立する部分があり、 どれかの目標に近づけることは他の目標から遠ざかることになる。 これが究極のシステムが存在しない理由である。

人ごとに各要素の指向が異なっているので最適なシステムは人ことに異っていて当然、 どれが上とか下とかないし、議論しても仕方ないというわけです。

Threefold Model についてもっと詳しく知りたい人は以下の記事(英語)を参考にしてください。
  英語版Wikipediaの記事: http://en.wikipedia.org/wiki/Threefold_Model
  Threefold Model FAQ:   http://www.darkshire.net/~jhkim/rpg/theory/threefold/


●GNS Theory (GNS 理論)
上記のモデルを発展させて Ron Edwards (SorcererというRPGのデザイナとして有名)はプレーヤーの行動やゲームデザインについて以下のような GNS理論(GNS Theory)を提唱しました。

RPGを遊ぶ時には各状況の判断において以下のような3種類のアプローチがある。
  • ゲーミスト(Gamist):  競技や戦いに勝つ可能性を最大にするよう行動する。 このタイプは障害を克服し明確な目標を達成することに満足を覚える。 Rifts や Shadowrun など が向いている。 

  • ナラティビスト(Narrativist):  キャラクターの動機や行動を通して良い物語を作る ように行動する。 このタイプは Over the Edge, Prince Valiant, The Whispering Vault, Everway などが向いている。 

  • シミュレーショニスト(Simulationist):  システムが偽りのない小さな世界を創るこ とに満足する。 GURPS や Pendragon が向いている。
この三種類の目的は同時に満たすことはできない。 例えばシミュレーショニストはリアルな過程が演出できるのならばルールが複雑になり行動判定に時間がかかることを許容するけれど、 ゲーミストは勝ち負けに関係ないところに時間をかけたくないし、 ナラティビストも物語上重要でないことには興味がない。

RPG という遊びは GMとプレイヤーの工夫次第でどんな遊び方もできるのでゲームシス テムは関係ないと言う人もいるけど実際はゲームシステムは重要である。 問題なのはゲームシステムがこの三つの矛盾する目標を同時に満たそうとしている点にあり、 ゲームデザイン上の最大の失敗である。 そのせいで誰も満足しない結果になっている。

単純なプレイヤーの分類にとどまらず、 プレイヤーの行動選択やゲームデザインにまで話しを広げています。

GNS Theory について、より詳しく知りたい場合には以下を参考にしてください。
  英語版Wikipediaの記事: http://en.wikipedia.org/wiki/GNS_Theory
  Ron Edwards の文: http://www.indie-rpgs.com/_articles/system_does_matter.html


●RPGの面白さをもっと分類してみる
要はRPGの楽しみ方には色々あり一つのシステムで全ての楽しみ方を満足させることはできないといことですね。 上記の例はどちらも典型的に三種類に分類していますが、 実際のRPGの楽しみ方はもっと多様であり、 その後も色々な分類や理論などが提案されいます。

それらを一つ一つ紹介していってもキリがないですし本筋でもありませんので、 私が勝手に RPG の面白さについて色々と分類してみたいと思います。 細部には多々異論があるとは思いますしもっと良いやり方もあるだろうと思いますが、 あくまで話の流れなので大目に見てください。
  • ゲーム(Game)の楽しみ: 選択肢を選び目標を達成すること、 それがいかに巧くできるかを他人と競い合う楽しみです。 敵に勝利し、 レベルを上げ、 目標を達成し、 シナリオをクリアすることを目指す楽しみです。 単に勝つことではなく公平なルールの中で腕を競うことを目的とします。 究極的にはチェスとかトランプとかと同じ楽しみと言えます。 
  • 探索(Exploration)の楽しみ: 知らない場所や新しい世界を旅して、 新しい知識や経験を得る楽しみです。 好奇心を満たすことは楽しいですよね。 これは実世界を旅行する楽しみと同じ楽しみといえます。 実際には旅できない仮想の世界を RPG を通して旅しているのです。
  • シミュレーション(Simulation)の楽しみ: 仮想的な現実を作って模倣し実験することの楽しみです。 実験するというは楽しいことです。 単純なルールが多様な世界を作り出していく様子はわくわくしませんか? コンピュー ターの物理シミュレータや、 化学の実験や、 歴史のifを議論したり、 ピタゴラ装置とか、 そういのと同じ楽しみですね。
  • 演技(Roleplay)の楽しみ: 他人を演じる楽しみ。 日常を離れて自分でない誰かを演じるのは楽しいものです。 ドラマのかっこいいセリフをまねしたり仮装(コスプレ)するのもこの範疇ですね。 究極的には演技を誰かに評価してもらう舞台役者や映画俳優の楽しみです。
  • 経験(Experience)の楽しみ: 普段の自分ではできない経験をする楽しみです。 上記の演技(ロールプレイ)の楽しみとよく似ていますが、 こちらはプレイヤーの動機や経験をキャラクターに重ねている点が異っています。 他人に演じて見せるのではなく自分のままで経験をすることを重視します。 多くの人はみじめな経験はしたくないと考えているので、 より良い経験をしようと努力する楽しみも含みます。 よく勘違いされますがゲームの中で「俺つえー」したがる人はゲームとしての楽しみではなくこの経験の楽しみを重視していることが多いです 。
  • 物語(Story)の楽しみ: これは説明するまでもないと思いますが、 面白い小説を読むのと同じ楽しみです。 ここでは RPG 的にゲームマスターやゲームシナリオが提供する物語や、 ゲームシステムから偶然できあるがる物語を聞き手として楽しむことを指します。
  • ナラティブ(Narrative)の楽しみ: これもストーリー指向として上記の物語を聞く楽しみと一緒にされてきたのですが、 最近では別ものとして分類されることが多いです。 こっちは 「物語を語ること、 物語を共有することの楽しみ」 と説明されます。 単に聞き手として楽しむのではなく、 物語に参加する楽しみ。 物語の紡ぎ手として、 みんなで同じ物語を共有する楽しみです。 RPG ならでは楽しみと言えるかもしれません。
  • ドラマ(Drama)の楽しみ: ここで言うドラマは芝居のことではなく、 ドラマチック(感動的)とかそいう意味のことです。 人間は感情を揺さ振られるのが好きです。 一人だけで怒ったり悲しんだりするのはあまり好きではないのが普通ですが、 みんなで怒ったり怖がったり喜んだりして同じ感情を共有するのは本能的に大好きです。 小説も映画や芝居の脚本などもいかに読者/視聴者の感情を揺さ振るかといことに気を配っています。
  • キャラクタ(Character)の楽しみ: これはどう名前をつけるか迷ったのですが、 人物を創る、 人物を成長させる、 愛着し、 蒐集したりする楽しみです。 実際には人物だけじゃなくて集団や事物、 さらに世界や歴史とかの抽象的なものまで対象になりますが、 もうキャラクター的なものを愛でるのは人間の本能なんじゃないかと思います。
考えれば、まだまだ色々あるかもしれませんね。 普段遊んでいる RPG を考えてみてゲーム システムや背景世界としてどの楽しみを重視して提供しているのか、 またゲームマスターやプレイヤーまかせにしているのはどの部分かなど分析してみるのも面白いかもしれません。


●そしてナラティブRPGが登場
少し脱線が過ぎたかもしれませんが、 RPG には色々な楽しみ方があり、  一つのシステムで これら全てを満たすのは難しいことは理解してもらえたと思います。 それどことか一つのシステムで色々やろうとすると、 どっちつかずの中途半端なものになってしまうということならば特定の要素を中心に据えたシステムが有れば良いという結論になります。

RPG の色々な楽しみの中で「ナラティブ」の要素を重視したいのならばナラティブを中心に据えたシステムが必要ということになります。 このような流れの中で生まれたのがナラティブRPGです。 一見して古典的な「普通の」 RPG と同じようなものに見えるかもしれませんが、 遊び方の目的とするものが違っているのです。

最近はナラティブは流行なので普通の RPG に少しナラティブ要素を取り入れているものも多くありますがそういうもの全てがナラティブRPGというわでではありません。 例えば 「行為時に物語を語ったらボーナスがつく」ようなシステムがあっても、 それはナラティブRPGではありません。本物のナラティブRPGならば物語を語ること自体が究極の目的なのでボーナスなどは必要ないのです。 一方でどんなに普通の RPG に似たシステムを整備し ていても、 プレイヤーが物語を創り出すこと(少なくとも創り出した思わせること)を主な目的としたシステムはナラティブRPGになります。


●HeroQuest Core Rule
そして、 この連載で紹介しようとしている HeroQuest Core Rule は完全なナラティブRPGです。 ようやく話しが戻って来ましたが、 HeroQuest がどれくらい完全なナラティブRPG かというと、 上記の私の分類でいう 「ナラティブ」 「ドラマ」 の楽しみの部分だけを残して、 残りの要素をルールから完璧に排除してしまったくらいナラティブ専用です。 通常はナラティブRPGと言ってもゲーム要素やシミュレーション要素など他の要素が少しは残っているのが普通なのですが、 HeroQuest Core Rule はナラティブ要素と他の要素が対立する可能性があるならば他は無くしてしまえといった感じで、 いさぎよいくらい混りものゼロのナラティブ専用ルールになっています。

《続く》
いつまでもルールの話になりませんが、 次回ももう少し脱線を続けてナラティブRPGの遊 び方とかその辺を書いてみようと思います。

HeroQuest紹介(1) - はじめに

●はじめに
HeroQuest Core Rules の紹介および解説記事を書いてみたいと思います。 どの媒体を使うか色々と悩んだのですが、ツイッターとかだと文章が短く切れ切れになり過ぎるし、 普通のウェブページだと、 レスポンスをもらうのが難しいので、 まずはブログでやってみることにします。 色々とレスポンスをもらえると嬉しいです。

HeroQuest Core RulesMoon Design Publications から出版されている TRPG です。  ここを読みに来ている人に TRPG とは何かについて説明する必要はないと思いますが、 日本ではテーブルトークRPGと呼ばれているもので、 アメリカだと TRPG は Tabletop RPG の略として使われることが多い気がしますが Paper and Pancil RPG という呼ばれ方をしたりします。 要はコンピュータを使わなくて、 人間どうしで集まってサイコロを使って遊ぶロールプレイングゲームです。


●まずは概要から
HeroQuest (ヒーロークエスト:英雄の探索)は、 いちおう日本語にも翻訳された HeroWars (ヒーローウォーズ)の後継にあたるゲームで、 種類としては汎用ジャンルのナラティブRPGになります。 HeroWars と HeroQuest の初版は Issaries Inc から発売されていたのですが、 その後権利が移って第二版にあたる HeroQuest Core Rule は Moon Design Publications からの出版になっています。 作者は以前の版と同じく Lobin D. Laws ですが、 後継といっても実際には大きく手が入れられていて、 全く読んだ感じの違うルールになっていおり遊び易く仕上がっているので、 旧版のヒーローウォーズや HeroQuest の第一版を遊んでピンと来なかっ た人や、 遊び方がわからなくてがっかりした人も再度挑戦してみる価値があるのではないかと思います。

HeroQuest Core Rule はA4サイズで130ページくらいの比較的薄いルールブックですが、 特定の世界専用ではなく汎用ルールブックになったことにより、 背景世界の説明がなくなった分、 ルール説明が詳細になっており読み応えはあると思います。 普通の RPG とは異っている部分が多数あるため一度読んだだけでは分かり難い点も多いかと思いますが、 考え方や遊び方の例などかなり丁寧に説明してあります。


●入手方法は?
このゲームの入手方法ですが、 東京だと神田神保町の書泉グランデの3Fで売っていたのを見かけたことがありますが、 日本からだとインターネットの通販を利用するのがてっとり早いと思います。以下本家 Glorantha.com のストアから購入できます(支払いには PayPalアカウントが必要です)。 書籍版以外にも電子書籍(PDF)版もありますので、 iPad 等のPDF閲覧環境を持っている人はこっちを検討 してみるのも良いかもしれません。 DRM等の制限がかかっていない普通PDFなのでたいへん便利です。

   購入: http://www.glorantha.com/product/heroquest-core-rules/


●グローランサはどうなったの?
HeroWarsHeroQuest (第一版)はルーンクエスト等で有名なグローランサが背景世界として設定されいましたが、 今回紹介する第二版は Core Rule という名前になって背景世界を限定しない汎用ルールブックになりました。 他社からですが HeroQuest のルールを 使った別の背景世界のゲームも出版されています。  とは言ってもグローランサ自体が捨てられてしまったわではなくて、 最後の章に付録としてグローランサで遊ぶ方法も載っていますので、 グローランサファンにも安心です。

さらに今年(2014年)の夏に HeroQuest をグーロランサで遊ぶための専用ルールブック HeroQuest Glorantha というそのまんまの名前の本の発売予定が発表されています。 GenConで発表予定ということなので、 入手可能になるのは8月後半以降になりそうですね。 グロ ーランサファンとして待ち遠しい限りです。

前から HeroQuest の紹介を書こうかなと思いながら無精して(何年も)先延ばしにしてきたのですが、 この機会にと思ってこの解説記事を書き始めました。 HeroQuest Glorantha の方も無事発売されたら紹介記事なんか書けたいいなと妄想しています。


《続く》
詳細なルール説明に入る前に次回ではナラティブRPGに詳しくない人向けに、 ナラティブRPGとしての背景について書きたいと思います。