2017年7月29日

クトゥルフ・ウォーズ 第三期キックスターター

クトゥルフ・ウォーズ 第三期(Cthulhu Wars Onslaught 3)がキックスターターにて現在支援者を募集しています。その応援を兼ねて、簡単な内容紹介を書いてみたいと思います。


キックスターター募集ページ: https://www.kickstarter.com/projects/1816687860/cthulhu-wars-onslaught-3
募集期限: 2017年8月15日 午前9時まで

●クトゥルフ・ウォーズとは
過去に簡単な紹介記事を書きましたのでそちらを参照ください。

●クトゥルフ勢力のルール改訂
第三期キックスターターの紹介の前に、既存のコアルール付の「大いなるクトゥルフ(Great Cthulhu)」勢力についてバランス調整のために一部能力が変更されるとの報告がありました。今遊んでいる人にも少し影響があると思うので最初にそれを紹介しておきます。
1)  潜水(Submerge)の呪文書を使用して潜水状態から再び出現(Emerge)する際のコストを 1 から 0 (無料)に変更。 

2)  夢(Dream)の呪文書の使用コストを 3 から 2 に変更
クトゥルフ勢力は人気はあるのですが、初心者では微妙に勝ち切れないという問題が統計的に明らかになってきたので、看板勢力として強化梃入れされることになったようです。今後新しく増産されるコアルールに付属する「呪文書」は新しいルールに入れ換えられるとのことです。既存のユーザーも今回のキックスターターに応募した人全員に交換用の呪文書が配布される予定とのことなので、お見逃し無く。

●オメガ・マスター・ルールブック (Onslaught 3 版)

今回のキックスターターで支援した人全員にオメガ・マスター・ルールブックの最新版が配布されます。これは基本と全部の拡張を含めたクトゥルフ・ウォーズの全ルールが記載されているフルカラー・ハードカバーのルールブックです。前の版との違いは、今回の第三期で追加される新拡張のルールが追加されてたからだそうです。とにかく200ページのハードカバー本($30相当)を参加者全員に配布ということなので太っ腹。PDF版は上記のキックスターターの募集ページから無料で今すぐダウンロードすることができます。

●「古代のもの(Ancients)」勢力
今回追加される新勢力で、通算で 9個目の勢力になります。この勢力を構成するのは地底世界クン・ヤン(K'n-Yan)に住む太古の超科学を持つが頽廃した人たちであり、邪神戦争に乗じて地表征服に乗り出すという設定のようです。この勢力には以下のように旧支配者がいないかわりに、力を秘めた大聖堂が四つ付属しているようです。

(独特な形状の)侍祭信者(Acolyte) 6人
反人間(Un-Men) 3体
蘇生されしもの(The Reanimated) 3体
ヨスの民(The Yothans) 3体
大聖堂(The Cathedrals) 4宇

●シャガイ・マップ(Shaggai Map)
今回の新しい拡張マップです。シャガイからの虫の出身地となる惑星シャガイを舞台にしているようです。この惑星は既に数世紀前に破壊されているのですが、その破壊の時代を舞台として、グロースにだんたんと破壊されていく惑星を舞台に戦うというコンセプトのようで、地形は虫を表現した幾何学的な六角形になっているようです。以下のユニットが付属します。

グロースの長虫(Worms of Ghroth) 6体
根絶フィギュア(Eeradication Figure) 15個

※ストレッチ・ゴール達成により支援レベルがワンプ($149)と侍祭($200)以外の人には6〜8人用の拡張シャガイ・マップ($30相当)も無料で付属することになりました。

●ニャルラトホテプの仮面(Masks of Nyarlathotep)
ニャルラトホテプには多くの異なった姿があるとされていますが、この拡張はそれら異なった姿をユニット化したもので、以下のようなユニットが含まれています。キックスターターの応募状況によってはストレッチゴールとしてさらなるユニットを追加する計画もあるようです。

膨れた女(Bloated Woman) 1体
影のファラオ(Shadow Pharaoh) 1体
闇の魔神(Dark Demon) (9色、各1体)

●時空を超えて(Beyond Time and Space)
時空に関連した怪物を集めた拡張パックで、以下のようなユニットが含まれているようです。目玉となるのは何といってもティンダロスの猟犬でしょう。

ティンダロスの猟犬(Hound of Tindalos) 1体
ワンプ(Wamp) 4体
ヴーニス(Voonith) 2体

●狂暴クトゥルフ(Dire Cthulhu)
別形態のクトゥルフ・フィギュアで、コアルール付属のクトゥルフが細くてどちらかというと知的な感じだったの対して、こちらはよりごつくて狂暴な感じのユニットになっています。クトゥルフは姿を変えることができるのでどちらも正しい姿なのだとか。このフィギュアはコアルールのものと入れ換えて使うこともできますし、独立の旧支配者として使うための専用のルールも付いてきます。あなたが発狂しているようなら両方のクトゥルフを同時に使っても構わないとか何とか。

●新しい勢力ごとの信者(New Faction Acolytes)
これは既存のコアルールや拡張ルールについてくる侍祭信者を入れ換えるための拡張パックです。前回の「チョー・チョー人」勢力や今回の「古代のもの」勢力に付属している侍祭信者は独特の形状をしているものの、第一期の信者は単なる色違いで全部同じ形状をしていました。この拡張はそれら7勢力それぞれごとに専用にデザインされた信者が 6体づつ付いてきます。例えば大いなるクトゥルフ勢力の信者は、目玉の飛び出したインスマス面になっているようです。ゲームルール上は違いはないようですが盛り上がること間違い無しです。あと色盲/色弱でも違いがわかるようにとのユニバーサル・デザイン的な配慮もあるようです。

●戦闘ダイス(Battle Dice)
キックスターター恒例の戦闘専用ダイスです。今回は何と勢力ごとの色と銀色の10色が準備されており好きな色を選ぶことができます。どの色でも 20個で $15、全10色200個まとめてお得な $60 で入手することも可能です(普通はそんな数は必用はないでしょうが各勢力の色が欲しい場合に)。

●中立ユニット識別リング(Neutral Unit Identifiers)
クトゥルフ・ウォーズのユニットは各勢力ごとに色分けされているのですが、中立のユニットは灰色で誰が使用しているのか色からは区別できません。この識別リングは各中立ユニットの下において誰が使用しているか一目で識別できるようにするためのものです。各 9 勢力それぞれの色で、大型から小型まで色々なサイズのリングが付属しており、全部で144個が付属しているとのこと。

●3mm厚の滅亡トラックと全滅の祭儀トラック
コアルールに付属している滅亡トラックと絶滅の祭儀トラックは普通の厚紙に印刷されたものだったのですが、次に生産される新版からは勢力ボードと同様の3mm厚のボード紙に変更されることになりました。それで旧版の購入者にも3mm 厚版が欲しいという人がいれば個別で販売するということのようです。

●既存分のアドオン
希望すれば以下のような第一期や第二期の拡張も個別アドオンとして追加することもできます。特に価格的なメリットはないようですが、全部入りは必要ないけど一部欲しい場合に個別に選んで追加することができます(現時点では金額だけ追加しておき後から指定します)。(ダイスやゲートなどの)一部の拡張は今後個別販売されるか決まっていないので、この機会を逃すと買えないかもしれません。

コアルール(Cthulhu Wars Core Game)  $199
道を開くもの(Opener of The Way)勢力  $50
眠れるもの(Sleeper)勢力  $50
風を歩むもの(Windwalker)勢力  $50
チョー=チョー人(Tcho-Tcho)勢力  $50
アザトース(Azathoth)拡張  $50
6〜8人用地球マップ(6-8 Player Earth Map)  $20
宇宙的恐怖(Cosmic Terror)パック  $25
不気味なゲート(Eldritch Gate Pack)  $50
   - これは過去の立体ゲート22個と、宇宙からの色ゲート8個をセットしたものようです。
大司祭(High Priests)拡張  $15
特殊ダイスパック(Custom Dice Pack)  $12
コアゲームのドイツ語/フランス語ボードと呪文書  $25
コアゲームと主要な拡張のドイツ語/フランス語ボードと呪文書  $100

●ストレッチゴール
今回のキックスターターでも応募金額の上昇にともなって参加者に無料で配られるおまけが追加されていっています。既に現時点での以下のようなおまけが付いており、これからも増える予定のようです。

クトゥルフ・Tシャツ値引きコード
暗闇で光るゲート 1個
HPラブクラフト開始プレイヤーマーカー
    - 第一期のおまけにあったランタンを持つラブクラフトの色違いバージョン
灰色の「古代なるも」の侍祭信者フィギュア
灰色の」黒き山羊」の侍祭信者フィギュア
灰色の」這いよる混沌」の侍祭信者フィギュア
    - これらは主に飾っておくようですかね
探索者(Investigators): ジョン・ダーク
探索者(Investigators): ナオミ・ジョスリン
    - とうとうクトゥルフ・ウォーズにも「探索者」が参入。敵勢力に押しつけて脚を引っ張るのに使うみたいです。現時点では 2人だけですが今後も追加されていく模様。

●支援レベル
今回のキックスターターには以下のような支援レベルがあります。

★ワンプ(Wamp) $149
今回の新拡張のうちメインとなる以下の4つとストレッチゴール分が付属しています。狂暴クトゥルフ(Dire Cthulhu)とか他の小物は付属していません。

古代なるもの(The Ancients)
シャガイ・マップ(Shaggai Map)
ニャルラトホテプの仮面(Masks of Nyarlathotep)
時空を超えて(Beyond Time and Space)

★ヨスの民(Yothan)  $199
今回の新規分のほぼ全てがついています。既に色々持っている人には一番のお勧めです。ダイスだけは1色20個のみなので、ダイス全色200個セットが欲しい場合はアドオンで追加する必用があります。あと追加するとしたら 3mm厚の滅亡トラック祭儀トラックあたりですかね。

古代なるもの(The Ancients)
シャガイ・マップ(Shaggai Map)
ニャルラトホテプの仮面(Masks of Nyarlathotep)
時空を超えて(Beyond Time and Space)
狂暴クトゥルフ(Dire Cthulhu)
新しい勢力ごとの信者(New Faction Acolytes)
戦闘ダイス(Battle Dice) 1色20個
中立ユニット識別リング(Neutral Unit Identifiers)

★侍祭(Acolyte)  $200
今からクトゥルフ・ウォーズを始める人向けの開始セット。コアルールと、過去分も含めて好きな拡張の中から1つを選べます。狂暴クトゥルフとストレッチゴールのまけも付いてくるのでかなりお得です。

コアゲーム(Core Game)
好きな拡張1個選択
狂暴クトゥルフ(Dire Cthulfu)

★ティンダロスの猟犬(Hound of Tindalos) $599
コアルールのみしか持っていなくて、拡張を一気に揃えたい人向けです。以下のように今回の新しい拡張と過去の主要な拡張全てが付いてきます。さらにダイス200個全部つき。

古代なるもの(The Ancients)
シャガイ・マップ(Shaggai Map)
ニャルラトホテプの仮面(Masks of Nyarlathotep)
時空を超えて(Beyond Time and Space)
狂暴クトゥルフ(Dire Cthulhu)
新しい勢力ごとの信者(New Faction Acolytes)
戦闘ダイス(Battle Dice) 10色200個
中立ユニット識別リング(Neutral Unit Identifiers)

道を開くもの(Opener of The Way)勢力
眠れるもの(Sleeper)勢力
風を歩むもの(Windwalker)勢力
チョー=チョー人(Tcho-Tcho)勢力
アザトース(Azathoth)拡張
6〜8人用地球マップ(6-8 Player Earth Map)
宇宙的恐怖(Cosmic Terror)パック
不気味なゲート・パック(Eldritch Gate Pack)
大司祭(High Priests)拡張
特殊ダイスパック(Custom Dice Pack)

★旧支配者(Great Old One) $749
ほぼ全部入り。コアルールに加えて上記のティンダロスの猟犬にある新旧ほぼ全ての拡張がついてきます。今から全部揃える人向け、かなりの量になるので格納場所を準備しておきましょう。

●今回のキックスターターの対象になっていない拡張
以下の拡張は今回のキックスターターでは対象になっていなくて、アドオンでも追加できず、全部入りにも含まれていないようです。

旧支配者パック((Great Old One Pack) 4種
ドリームランドの怪物パック(Dreamlands Monster Pack) 2種
ラムジー・キャンベル怪物パック 2種
過去の拡張マップ 4種

現状で在庫に限りがあり、増産のタイミングがキックスターターと合わなかったのが理由とのことです。まだ版元の Petersen Games のネットショップや、各ゲームショップに在庫が残っているようなので欲し場合にはそちらを当ると良いでしょう。

●キックスターターの注意
キックスターターに慣れた人になら言うまでもないことですが、キックスターターは予約購入サイトではなく、あくまで開発資金などを支援するためのサイトで、もしうまくいった場合に支援のお礼として報酬がもらえる仕組です。

報酬はあくまで予定であり、状況によっては変更されたり無くなったりする可能性もあるので留意する必要があります。中には資金だけ集めて連絡が取れなくなったりする詐欺に近いものもあるので実績など良く注意してください。その点、今回の Petersen Games のチームは過去のクトゥルフ・ウォーズの第一期、第二期を含めて多くのプロジェクトを成功させて報酬を配ってきているので信頼性は高いです。

あと報酬の配布時期ですが、キックスターターの期日は全てが予想以上にうまくいった場合の希望的な推定だと思ってください。遅れるのはざらというか当り前です。経験上99%遅れます。2倍〜3倍遅れるのは当たり前くらいに考えておくべきものです。一方でクトゥルフ・ウォーズのチームは手慣れてきており、最初の見込みからあまり遅れることはなくなってきているようです(今回もそれほど遅れないのではないかと期待しています)。

●配送料金について
あともう一つだけ注意しておくべきことがあります。上記の支援金額には送料が含まれていません。プロダクトの完成後に宛先にごとに配送料金別途請求されることになっています。クトゥルフ・ウォーズはかなり大きなフィギュア多数で構成されており大きな箱に入っているため国際配送料はかなり高額になります。支援したプロダクトの数とかにもよると思いますが第一期および第二期の時の私の経験から言うと $100〜$200 の配送料金を別途見込んでおく必要があると思います。

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終わりに
以上はあくまで現時点での内容で募集期間はまだ半分(2週間)以上残っており、今後も色々な追加や変更があるのではないか思います。皆様もこの機会にクトゥルフ・ウォーズに挑戦してみてはいかがでしょうか。

2017年7月1日

RuneQuest Quickstart 紹介

今年の年末に Chaosium社から新しいルーンクエスト(ケイオシアムが開発したという意味では日本語に翻訳された第3版に続く、第4版)の発売が予定されています。今回のルーンクエストは汎用システムではなく、グローランサ世界専用とアナウンスされており、ルーンクエスト第2版以来何と37年振りのことで、その名も RunelQuest: Roleplaying in Glorantha です。

 

そして、その新ルーンクエストのお試し版というかプレビュー版の位置付けのクイックスタート(Quickstart)が先月の Fre RPG Day のイベントの一貫として欧米のゲームショップの店頭で無料配布されたのですが、本日(7月1日に)あらためて販売開始となり広く入手できるようにになりました。PDF版ならば無料で入手できますので是非入手してみてください(英語ですが)。

新しいルーンクエストがどのような感じになるのか? このクイックスタートをレビューしてみたいと思います。短かく簡単に読み易くまとめるつもりだったのにダラダラと長くなってしまいました。長いですけどあまり中身はないので軽く読み流してもらえると幸いです(あらかじめ言い訳)。


●クイックスタートの入手方法

クイックスタートルールは以下のケイオシアム社のサイトから購入できます。PDF だけなら無料でダウンロードできます(下の方に Get the Free PDF Download! というリンクがあります)。

販売ページ:
www.chaosium.com/runequest-roleplaying-in-glorantha-quickstart/

Free RPG Day に配られた冊子と比較すると、一部の誤植や間違いが修正されているようです。


●クイックスタートの概観

A4レターサイズで表紙別で48ページになっています。表紙は綺麗なカラーで伝統の大きなトカゲと、青銅の鎧を着た女性冒険の絵です。この大きなトカゲですが、どんなに恐ろしい怪物かと想像していたのですが、ケイオシアム社のスタッフの話だと、ロックリザード(岩蜥蜴)だったようです。そう聞くといきなり雑魚に見えてくるか不思議です。中身は白黒で前半の24ページがルールパート、後半が16ページのシナリオと 8ページの作成済みキャラクターになっています。


●ルール全体の印象

個々のルールを確認する前に、まず最初に注意しておかなければならないのは、新ルーンクエストはまだ完成していないということです。それで、このクイックスタートも開発途中のルールが元になっていて、コンピューターのプログラムでいうアルファ版のようなものということです。それでこれから紹介する内容もあくまで現時点のもので正式版では変更になる可能性が多分にあります。
クイックスタートは今年の 2月頃のルールを元に作成されたもので、それ後も開発が続けられており、現時点で既に色々変更になっていとのことです。さらに 48ページ(シナリオを除くと 24ページ)にルールを収めるためにかなりの部分が省略されたり簡略化されてになっています。

クイックスタート・ルールを読んでいて最初に気付くのはどこかで読んだことがあるようなルール文章があちこちにあることです。実際に第2版や、第3版のルールブックからコピーペーストしただけのような部分が多数見つかります。デザイナーの「昔からルーンクエストを遊んでいる人に馴染み深いルール」とか「ルーンクエスト2版をベースにルーンクエスト3版の良いところを取り入れて、ペンドラゴンなどを元に新ルール導入する」とか「実質ルーンクエスト 2.5版」とかいう話は嘘ではなさそうです(笑)。2版からとった部分と3版からとった部分があるせいで現時点では整合性が取れていない部分も残っているのがご愛嬌。正式版発売までには直っていて欲しいところです。


●能力値

それでは個別のルールを見ていきたいと思います。まず最初に能力値ですが、筋力(STR)、耐久(CON)、サイズ(SIZ)、敏捷(DEX)、知性(INT)、パワー(POW)、カリスマ(CHA)となっています。日本語に翻訳された第3版と比べると外見(APP)がカリスマ(CHA)に入れかわっていますが、ルーンクエスト的に3版以外は全て CHA なので標準的といった感じです。


●増強

最初に記載されているのは増強のルールです。ある技能(スキル)で別の技能を補強するルールが正式に採用されました。絵を売る際に〈芸術〉技能で〈取引き〉技能を補強して成功率を高めるとかができます。ルールは簡単で支援する技能、この例なら〈芸術〉技能で判定して、成功すれば〈取引き〉に +20%、失敗ならば -20% となります。クリティカルやファンブルならもっと極端な修正になりますが、シンプルで使いやすいものになっています。もちろん自分の技能だけでなく他人の行為に対しても増強を使用できます。印象的なのは単なる技能だけでなく、能力値抵抗ロールや、呪文をかける際の成功率まで増強することもできる点です(〈ダンス〉や〈歌唱〉技能などが使えます)。かなり応用範囲の広いルールとなっています。


●技能

技能(スキル)は大雑把には今までの RQ2/RQ3 と同じ感じですが、内容の整理や入れ換えが行なわれています。〈地図作成〉とかの(使えないw)技能は無くなりました。新しい技能として目立つのが〈威嚇(Intimidiate)〉とか〈策謀(Intrigue)〉のような交渉系の技能の充実です。〈芸術〉や〈ダンス〉も交渉分野に分類されています。ほかには知識系の技能に〈農場〉〈放牧〉〈家の経営〉のような職業系の技能が追加されています.クイックスタートに記載されている技能は一部のみで全てではないとのことなのですが、戦闘や冒険の場だけではなく日常的な技能に力を入れていることが伺えます。


●ルーン

新しいルーンクエストで新規導入されたルールとして最も目につくのは「ルーン」についてす。RQ2 や RQ3 ではルーンクエストという名前に反してルーンは信仰する神々の属性としてのみ使用されており、冒険者個人にはあまり関係しませんでしたが、新しいルーンクエストではキャラクターごとに「ルーン」という特性を持ちます。これは技能の同じくパーセント値で表現され、風のルーン90%、移動のルーン70%、調和のルーン60% のような値を個人ごとに持つことになります。

ルーンには色々な使い方がありますが、最もわかりやすいのがルーン呪文の使用です。今まではルーン呪文(神性呪文)の成功率は 95% 固定でしたが、新版では呪文ごとに関連するルーンが決まっており、そのルーンの値が呪文の成功率になります。例えば《瞬間移動(テレポート)》の呪文は移動のルーンの値で成功率が決まります。

ルーンのもう一つの重要な使用方法はルーンによる鼓舞(インスパイア)です。身体/精神をそのルーンの力で満たすことにより、そのルーンに関連する行為を強化することができます。これには上記の技能による増強と似たルールを使用します。例えば「火」のルーンは槍に関連しているために、火のルーンで心を満たしてインスピレーション判定に成功すれば〈ロングスピア〉技能に+20% の増強を獲得できます。ルーンそのもの魔術的な効果ということだと思いますが、下手な呪文によりずっと応用範囲が広くて有用な力です。失敗した時のペナルティもあるし、ゲームマスターの許可も必用なので、いつも使えるというわけではありせんが、新しいルーンクエストの重要な要素になっています。

ルーンには個人の性格や個性として使い方もあります。グローランサのルーンにはそれぞれに関連した性格が決まっており、特定のルーンの値が高いものはそのルーンの性格が強いとされています。「風」のルーンならば「活動的で、誇り高く、暴力を好み、移り気で予想がつかない」といった感じになります。ロールプレイの参考にしたり、選択を迷った時にダイスで方針を決めたりできます。またルーンの値が非常に高い場合には、本人が望まなくても、そのルーンの性格にふりまわされる(ゲームマスターの指示により判定/行動を強制される)ということもありえます。


●情熱(パッション)

ペンドラゴン(アーサー王伝説を舞台にしたRPG)を遊んだことがある人ならお馴染みの「情熱(パッション)」ルールがルーンクエストにも導入されます。人には「愛情」や「忠誠心」場合によっては「憎悪」や「恐怖」などのとても強い感情や、それのためには苦労を厭わないような個人的に大切にしているものがあります。そして物語の上でそれが問題になった時に普段では出せないような能力を発揮することがあります。これを表現するためのルールが情熱です。情熱も技能やルーンと同じく「忠誠(アーグラス)80%」「帰依(オーランス)90%」のようにパーセントで表現され、D100を使って同じように判定します。技能(スキル)と「ルーン」と「情熱(パッション)」、同じ判定方法を使用するこれらを三つを合わせて特性(アビリティ)と呼びます。

情熱は主に鼓舞(インスパイア)に使います。例えば家族が危険にさらされた時に「愛情(家族)」の判定に成功すれば、家族を救うための戦いなど技能ロールに増強を得ることができます。一方でルーンと同じく、プレイヤーや本人が望んでいなくても強い情熱(パッション)によってキャラクターが振り回されることなども起こります。情熱は、それによってその人が大事にしているものや、冒険のきっかけ、周囲とのかかわりなど明確にし、冒険者を単なる「駒」ではなく生きた存在にします。

ペンドラゴンのもう一つの特徴であった「気前が良い」とか「冷酷」とかいった性格(トレイト)のルールは導入されていませんが、ルーンクエストでは先に説明した「ルーン」を性格として使用します。


●戦闘ラウンドとストライク・ランク

ルーンクエストなのでもちろんストライク・ランクによる行動順の決定があります。クイックスタートルールを読む限りではストライク・ランクのルールはルーンクエスト2版(RQ2)と全く同じもののようです。RQ2 のストライク・ランクについては前に記事をかきましたのそちらを参照ください。

ルーンクエスト3版(RQ3)との最も大きな違いは専用の移動フェイズがあることです。このため移動の処理が簡単です。移動関連のルールも RQ2 と同じで、接敵状態から離脱するためのルールが追加されたのが唯一の違いといった感じです。あと RQ2 は 1戦闘ラウンドは 10 ではなく 12ストライク・ランクからなります。


●武器と鎧

武器と鎧のデータは現時点ではおおまかには RQ2 の数値を元に、新しい武器が追加されているくらいの違いしかないようです。この辺の数値はまだ調整中なので正式版では、一部変更されるとのことです。

運用的な大きな違いとしては、攻撃と受け流し(パリィ)の技能の区別が無くなったことがあります。例えば〈ブロードソード〉技能一つで、ブロードソードによる攻撃と受け流し(パリィ)の両方ができます。


●攻撃と受け流し

戦闘ルール、特に攻撃と受けの流しの関係はなどは、おおまかには RQ3 が元になっており、それに RQ2 風味の味付けをした感じになっているようです。

もちろんクリティカル成功(決定的成功)とスペシャル成功(効果的成功)のルールもありますが、残念ながらクイックスタートでは貫通(インペイル)やスラッシュなどの個別ルールがスペースの都合で削除されていて、スペシャルだと一律ダメージ2回分のように簡略化れてしまっています(正式版にはちゃんと貫通とかのルールも載るそうです)。

この部分はテストプレイの結果を反映させて、クイックスタート以後にルールが見直され一部変更になったとアナウンスされています。クイックスタートのままのルールだと武器が壊れ易すぎると不評だったためとのことです。最新版のルールが BasicRoleplaying.org サポート・フォーラムで解説されていたので、ここではクイックスタート記載ルールではなく、より新しい方を紹介したいと思います。

攻撃\受けクリティカルスペシャル成功失敗
クリティカルダメージ無しクリティカル命中クリティカル命中クリティカル命中
スペシャル強カウンタースペシャル命中スペシャル命中スペシャル命中
成功強カウンターカウンター通常命中通常命中
失敗強カウンターカウンターカウンターダメージ無し

通常命中:

武器のダメージ・ロール + ダメージボーナスロールを与える。受け流しに成功していたらその武器の HP をダメージから引く。ダメージが受け流した武器の HP 以上なら余分のダメージは命中部位へ適用され、受け流しに使用した武器のHPを 1 だけ減らす。

スペシャル命中:

武器種ごとに異なるダメージを与える。受け流しに成功していたらその武器の HP をダメージから引く。ダメージが受けた武器の HP 以上なら余分のダメージは命中部位へ適用され、抜けた量と同じだけ受け流しに使用した武器の HP も減少する。
    突刺武器 貫通:? 武器最大値 + 武器ロール + ダメージボーナス
    切断武器 スラッシュ:? 武器ロール2回分 + ダメージボーナス
    打僕武器 クラッシュ:? 武器の通常ロールダメージ + ボーナス最大値 + ダメージボーナス

クリティカル命中:

スペシャルと同じダメージ量だが、鎧や魔法の防御を無視する。受け流しに成功していたら受け流し武器の HP にそのダメージを適用する。ダメージが受け流しに使用した武器の HP 以上なら(武器は破壊され)、余分のダメージは(鎧や魔法の防御は無効で)命中部位へ適用される。

カウンター:

攻撃側はダメージを与えられず、防御側は受け流しに使用した武器のダメージ + ダメージボーナスをロールし、それを攻撃した武器の HP と比較して越えていれば、攻撃武器の HP を 1 だけ減らす。

強カウンター:

攻撃側はダメージを与えられず、防御側は受け流しに使用した武器のダメージ + ダメージボーナスをロールし、そのダメージを攻撃武器のHP に適用する。

ファンブル:

攻撃ファンブルおよび受け流しファンブルは失敗に加えてファンブル表でロールする。(クイックスタートではファンブル表が省略されているので一律に「使用した武器を 1D3メートル先に落とす」になる)

要約すると通常命中や通常受けの場合の処理は RQ3 と全く同じで、クリティカルやスペシャル成功した場合には、従来の効果に加えて武器破壊効果が追加されている感じになっています。RQ2 ほど武器が壊れ易いわけではないものの、RQ3 よりは壊れるので要注意といった中間のバランスになっているようです。


●命中部位とダメージ

命中部位は RQ3 の近接/遠隔の2種類から、RQ2 の 1種類だけに戻りました。繁雑なわりに二種類あることの面白さがあまり無かったからということのようです。

ダメージの扱いは RQ2 を元にして、わかりやすく整理したものになったようです。あいかわらず手や足が飛びますし、頭を殴られて即死したりするので緊迫感のある戦いが楽しめそうです。


●防御と回避

個人的には RQ2 の防御(ディフェンス)値は気にいっていたのですが、残念ながら無くなり、RQ3の〈回避〉技能の方が採用されいます。引き算はめんどうだったのでしょうね。回避のルールは RQ3 のものと同じもののようです。


●精霊魔術と精霊戦闘

精霊呪文の使い方はほぼ RQ2/RQ3 と同じようです。呪文の種類は少し増えるみたいです。ただ呪文を所有できる量は INT から CHA に変更されたようで、CHA 能力値の重要性が上がっています。

精霊戦闘のルールはかなり変更になったようです。クイックスタートでは精霊戦闘のルールの簡略版なため、詳細はわからないのですが〈精霊戦闘〉技能どうしの技能対抗ロールで勝敗を来め、勝った方が(多分CHAから計算される)「精霊戦闘ダメージ」を相手のマジック・ポイントに与えるという処理になるようです。


●ルーン呪文

呪文自体の種類や中身はそんなに変更にはなっていないようですが、その使用方法が大きく変更になっています。

ルーン呪文を使用するためにはマジック・ポイントに似たルーン・ポイントという数値を消費する必用があります。ルーン・ポイントはあらかじめ POW を捧げて獲得する必用がありますが、今までのようにどの呪文を使うかを事前に決めておく必用はなく使用時に決めることができます。またルーン・ポイントは神殿に戻って聖日の祝祭や礼拝に参加することにより入信者でも回復させることができます。入信者でも使い捨てでは無くなったことにより強力なルーン呪文が使えるようになっています。付属のキャラクターを見た感じだと初期キャラクターでもルーン・ポイントを 3ポイント〜4ポイント持っているようなので、使える回数は少ないものの、ここぞという時の切り札として便利に使えそうです。

ルーン呪文が非常に使い易くなった一方で、先に「ルーン」のところで説明したように呪文の成功率が 95%固定から、対応するルーン値に変更になっており、いざという時の信頼性が低下しています。もっとも自分の信仰する神についてのルーンは初期キャラクターでも 60%〜90% を持っているようなので、そこまで失敗を気にする必用はないのかもしれません。


●魔道

クイックスタートでは魔道に関するルールは省略されています。


●キャラクター作成

残念ながらクイックスタートにはキャラクター作成ルールは記載されていません。そのかわりにシナリオを遊ぶために作成済みの冒険者が五人(オーランス、アーナールダ、七母神、ランカー・マイ、イサリーズの信者)付属しています。

これらの冒険者は実際のテストプレイで、でプレイヤーたちがキャラクター作成ルールを使って作った初期キャラということなので、ここからキャラクター作成ルールを推測してみます。まず武器技能を 80%〜100% 持っており最初からかなり戦闘力の高い冒険者が作れることわかります。一方で高い値を持つ技能はそんなに多くないので出来ることは限られている感じです。

全員が両親や祖父母などの記録や、過去の冒険の履歴を持っており経歴ルールを作って決めたものなのでしょう。ハレックに切られて生き残ったとかそんな波瀾万丈の経歴を持つ冒険者もいたりします。トラベラーみたいに作成中に死んでしまうようなことはないと信じたいところです。

中には 18 を超える非常に高い能力値(INT 20とか)を持っているキャラクターもいるのようなので、経歴か何かで能力値を成長さえるような仕組みなどもあるのかもしれません。他にも全員が何らかの魔法の品(単なる治癒薬だったりする人もいますが)を持っていてこれも経歴ルールで入手できるものだそうです。


●貨幣価値

ちょっと気付いたというか、意外と重要な点が貨幣価値が変更になっている点です。古いルーンクエストだと 1ルナーは貧乏人の1日の生活費くらいという扱いで、牛1頭の値段が200ルナーでした。

最近のヒーロークエストでは牛1頭が20ルナー、1ルナーあれば普通の家族が一週間暮せるくらいの価値に変更になっていて、貨幣の価値にだいたい 10 倍の開きがあります。新しいルーンクエトでは、グローランサの実状に近い方、ヒーロークエストの貨幣価値が採用されているようです。なのでルナー銀貨の価値は昔のルーンクエストと比べると約10倍あります。付属の冒険者の中に何げに 600ルナー以上の現金を持っていたりしますが、これは昔の基準でいえば 6,000ルナーに相当する大金ということになります。


●シナリオ

クイックスタートの後半は「壊れた塔(The Broken Tower)」というドラゴンパスを舞台とした短かいシナリオが記載されています。これから遊ぶ人もいると思うのでシナリオについては詳しく書きませんが、新しいルーンクエストのお試し導入シナリオとしては、かなり良くできるじゃないかと思います。


●まとめ

全体としてルールは、まだまだ開発中な感じで色々と矛盾があったり、記載が足りてなかったり(記載が足りないのはページ数を押さえるために大幅に簡略化した影響もあるとのこと)で完成度の点でが全然足りてないのですが、昔のルールのどこを生かしたいのか、何をどう変えたいか、どのような冒険を紡いで欲しいのかについて、簡略化されたルールの中からでかなり明確なビジョンを感じられるようになっいて正直感心しました。

これだよ、これ本当に欲しかったのはこういやつ、とい気持ちが強く湧いて来ます。このままブレることなる完成度を高めていってもらえると良いのですが(発売予定が今年年末とか、逆にテストプレイとか調整の時間が足りるのか心配になってたりします)。ともあれ完成版が今からとても楽しみです。

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以上